9 怒涛に吟ずる妙ちきりん
短めです。
「……。」
ぽかーんと口を開けて固まっている青年。
「どうかされましたか?」
少女は、首を傾げた。
紫の髪がさらりと揺れた。
「あの……?」
くりくりとした宝石のような紫の双眸が青年に向けられる。
「……っ!」
青年は左手で口を押さえて後退ろうとするが、片方の手は少年に握られているため、出来ない。
「?」
「……あー、なるほど。彼には刺激が強すぎたみたいだねー。」
察知してしまった少年は、微苦笑していた。
「……私、何かしてしまったのでしょうか?」
少女は不安そうである。
「いーや? 君のせいじゃないよ。彼は、どうしようもない、メルヘンな葛藤と勝手に戦っているだけだから。見守りながら放っといてあげてー」
「?」
少年の言っていることが分からず、眉を曇らせた。
「……要するに、僕だけを見ていれば問題ないってこと。」
「……え」
少女は目を見開く。
「ね。」
悪戯めいた瞳が、少女に向かれる。
「……なーんて、そのぐらい彼のことは気にしなくても──」
「……、はいっ」
少女は、はにかみ微笑んだ。
「……んー? なんか、僕が思ってたのと違うような……? ま、いいや。」
少女の反応に首を捻るが、瑣末なことだと思い、棚上げした。
「さ、……そろそろかな?」
少年は手で口を覆ったままの青年へと目を向ける。
「何のことですか?」
少女は少年に尋ねる。
「まぁ、見てなって。多分面白いのが見れるよ──、3、2、1……」
「わあぁぁぁぁぁぁ!!」
少年のカウントダウンが終わった直後に、再起動した青年の叫びが発動された。
少女はびくっとした。
「ななっなっ、なんて」
青年の声は上擦る。
少女は目を見開き、少年は目を細める。
「可憐な方なんでしょうかっ!?」
「……。……はい?」
少女は目をぱちくりさせ、気の抜けた声を出す。
「……っく」
少年は俯いた。心なしか肩が震えている。
「あの……」
少女は青年を見て困惑するばかりである。
「こんなっ! アメジストのような美しい方が、この世に御座すなんてっ!! 」
「えっ」
驚いている少女に構わず、 青年は感激した声を上げる。
「ああっ! なんてその麗しい神秘的な光を湛える瞳! スッと蕩けそうな柔らかさを併せ持つ髪!」
火照った頬、熱に浮かされた薄茶の瞳。
「ええと、……」
そんな熱気に当てられて、たじたじになっている少女。
少女はちらりと少年の方へ視線を移す。
「……ふっ、」
まだ、少年は静かに肩を震わせていた。
「……シュユウ」
少女は少年を軽く睨み、呼び掛けた。
「ごめん、ごめん。期待を裏切らない面白さでつい。くくっ」
少年は屈託無く笑いながら言う。
「まぁ、でも。」
笑うのを止め、盛り上がっている青年に目を向けた。
「控えめな甘味を持った優しさは──」
まだ口上を述べ続けている青年に対し、少年は青年の指を握って引っ張った──、
「やりすぎ」
ゴンッ
「正しく葡萄ゼリーっ!?」
青年の口上は止まった。
少年は青年の頭に頭突きを食らわしたのだった。
「……は?」
少年はその言葉を聞いてポカンとする。そして──、意味を正しく理解すると──、
「……ふっ、はははっ!」
爆笑したのだった。
青年は目を見張ったまま、少年から目が逸らせないでいた。
からりとした快晴を思わせるその表情に、魅入られて。
青年の心に留まる渦を吹き飛ばしてくれた。一時的であろうが。
(……あぁ、洗濯物がよく乾きそうです。)
なんて阿呆なことを、ぼんやりと青年は思ったのだった。




