38.売れないアイドル
アイドルグループ『精霊シスターズ』の解散記念として、
元メンバーの火乃 精が週刊誌にグラビアで初登場した。
とはいえ、掲載はたった2ページ。そもそも精霊シスターズ自体の知名度が低く、
発行部数に影響を与えることも、話題になることもなかった。
半年が過ぎ、火乃 精の契約は残り3か月を切ってしまった。
完全に崖っぷちのアイドルだ。
彼女のマネージャーである米沢美香は、
歌唱力もトークもあるのに売れない現状に苛立ちを募らせていた。
「絶対に売れる子なのに……私の力不足なの?」
そんな焦りが、彼女の表情に滲んでいた。
「何か、話題性の一つでもあれば……」
美香はため息をつきながらネットニュースを眺めていたが、
ふと画面に映った記事に目を止めた。
そして、ゆっくりと口角を上げる。
「……そういうことね」
その笑みは、どこか危うい光を帯びていた。
◇
勤務中、私は西署の交番で掲示板に張り紙をしていた。
『グランドプラザ防犯イベント 一日署長:火乃 精』
富山に来るらしいが、私は名前すら知らなかった。
「なぁ浜、火乃 精って知ってるか」
「えっ、知ってるよ。半年前に解散したアイドルグループの子。
でも……正直、印象は薄いよね」
浜がそう言うなら、世間の評価も似たようなものだろう。
勤務中はスマホをいじらない主義だが、
その夜、私は初めて聞いた名前が気になり調べてみた。
すると、Xに本人の投稿があった。
『【告知】7月7日、富山県で一日署長を務めます!
会場はグランドプラザ。富山の皆さん、ぜひ見に来てくださいね!』
そのリプ欄を眺めていたとき、妙な書き込みが目に入った。
『じゃあ俺、富山の銀行で強盗するから署長として捕まえてくれ』
冗談にしては悪質すぎる。
胸の奥に、嫌なざわつきが広がった。




