35話 やーいぼっt((
「取り敢えずミスズさんの着替えは私の物を使って下さい」
「ありがとうございます…」
私が密かに痛みに悶えている間に、美涼さんはミリアさんから服を受け取っていた。そう言えばずっと裸だったね。
元の服は血だらけだし直す意味も無いと言う事で、そのまま廃棄するらしい。
「取り敢えず当面の物は私達が用意してあげるから、何か必要な物があれば言って頂戴」
「そ、そこまでして頂かなくても…」
アリーシャさんからの申し出に、美涼さんは心底申し訳なさそうな表情を浮かべて断る意志を示した。でもさ美涼さん、ちょっと考えてみてよ。今の自分の状況をさ……服無し装備無し荷物無しだからね?
『武器はどうするの』
「武器? あー…実はあんまり戦うの特徴じゃないのよね。護身用として長めのナイフを持ってたくらいで」
……まぁ、二回会った内、一回目は死にかけで二回目は文字通り死んでたもんね。何となく予想はしてた。逆に何で今まで生きてこられたのか不思議なくらいだよ。
「得意じゃないって…じゃあ何でこの迷宮に来たのよ」
「本来活動している階層はもっと浅いんです。転移トラップで引き摺り込まれただけで…」
「成程…だからミスズさんに関する情報が無かったのですね」
うん? 浅い事と情報が無い事がどうして結び付くんだろう?
私が首を傾げていた事に気付いたのか、ミリアさんがクスリと笑みを零す。
「私達が居るガルナメリア大迷宮は極めて広大であり、複数の国に跨っているのですが……実は広く繋がっているのは深い部分だけで、浅い部分は各国の領土内だけに留まっているのですよ」
ほうほう? つまり美涼さんは浅い部分しか潜っていなかったから、例えるなら地元だけで活動していた感じなのね。だから接点が無かったと。
「ミスズさんの出身はガイアメルクですか?」
「ガイア…多分、そうです」
「多分?」
「私達が呼ぶ名前とは違うので…」
「あぁ成程」
国の呼び方って色々あったりするもんね。一瞬分からなくなるのも無理は無いのかも。
「ここから迷宮内を歩いて向かうなら…とんでもない時間が掛かるわね」
「それでも地上を進むよりはマシなのですけれどね」
「ふむ…」
アリーシャさんが顎に手を当てて思案顔になる。もしかして美涼さんを元の国に帰そうと思ってる? それなら私は喜んで協力するよ?
「アヤメに乗せて貰えばかなり時間を短縮出来るかとは思いますが…その前に私達に限界が来てしまいますね」
「あー…それもあったわね」
「限界…あっ、魔力酔いですか」
『魔力酔い?』
またしても首を傾げた私に、ミリアさんが説明してくれる。
何でも迷宮は魔力に満ちた閉鎖空間である為、長居すると魔力酔いと呼ばれる状態に陥ってしまうそうだ。
魔力酔いは最初こそ身体の怠さや眠気などだけらしいんだけど、症状が進行するとだんだん身体の自由が利かなくなって、最終的には眠るようにして命を落としてしまうそうだ。怖っ!?
以前ミリアさん達全員が私を置いて外に行った事があったけど、あれは魔力酔い対策なのだとか。
「…ミスズさんは、大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫だと思うしか無いわね。現状外に出られないんだから」
だね。まぁ今の美涼さんはゴーレムのようなもので生きてない判定っぽいから、大丈夫だとは思う。
「となるとミスズさんを国に帰して差し上げるのは今の所難しそうですね…」
「…当人としては、そこまで気を使って貰わなくても良いんですけどね。未練はそこまで無いですし」
やーいぼっtあっぶなッ!?
「チッ…」
「…初めて見たわね。そんな曲芸的なアヤメの姿」
美涼さんの容赦無い貫手を横っ飛びでギリギリ回避したら、アリーシャさんから感心された。感心してないで美涼さんを止めてよねっ! 脇腹突かれるの結構痛いんだよ!? そもそも伏せた状態から横っ飛びするのもまぁまぁ辛かったし!
「若しかしたら向こうでミスズさんを心配して探している方が居るかも知れません。親しい方は居らずとも、知る方は必ず居るものです」
ミリアさんの言葉に私も頷く。人って生きる限り誰かに迷惑を掛けるし掛けられるものだ。そんなに真剣でなくとも、気になったりはするだろう。
物事っていうのは、些細な切っ掛けさえあればある瞬間に途端に大きくなる事が多い。それはきっと美涼さんにとっても本意では無いはずだ。
それが分かっているからか、美涼さんの表情も芳しくない。
「情報を上に持って行っても伝達にはかなり時間が掛かりますから…」
「でも向かうのもどちらにしろ時間が掛かるんですよね?」
「そこが一番の問題なのよねぇ…」
ふむ…やっぱり問題になるのは時間かぁ。何かいい案が何処かに転がってたりしないものかな?




