魔法薬
大型犬に姿を変えたジークウェルト様とリアス先生の部屋に入る。そこはあいかわらず植物であふれていた。
銀髪にアイスブルーの瞳の男性が机の前に座りどこか物憂げに資料を眺めている。
白銀の光とともにジークウェルト様が人の姿に戻る。
「リアス先生」
「フィア君にジークウェルト君か。もうできあがったのか……。返す返すフィア君を魔術師ギルドに招き寄せられなかったのが残念だ」
「フィア嬢は正式な手続きに則って騎士団所属です」
「そうだな。それに君がフィア君を離すとも思えない」
ジークウェルト様は、その言葉に返事をすることなく魔法陣が描かれた紙を差し出した。リアス先生がそれを受け取る。
「ふむ、確かにジークウェルト君の身を蝕んだ毒の作用はこれで解消できそうだ」
リアス先生は立ち上がるとおもむろに部屋の中の植物の葉や実をちぎりはじめた。
「……魔力を安定させるには雪草の枝、流れを良くするなら火柳の葉、そして銀椿の実」
リアス先生は一流の魔術師だ。
今や王都には王立学園を離れてからリアス先生が発明した物であふれている。
(もしかすると、名前を出していなかっただけで以前にも何かあったのかもしれない)
そんなことを思っているうちに、集められた植物の素材はすりつぶされてポチャンと液体に浸された。
「……紙をそこのテーブルに広げてくれ」
魔術の実技試験を思い出して少し緊張しながら紙を広げる。
リアス先生があのころのようにひとつ頷いてビーカーをテーブルの上にのせた。
「ジークウェルト君、君も参加しなさい」
「……しかし」
「大丈夫だ。フィア君もこちらに来なさい」
先ほどから胸元のブローチにはめ込まれた白銀の魔石がギラギラと輝いている。
「この魔法陣が完成するまでに何度もジークウェルト君の魔力を流していたから、親和性が高いはずだ」
私はブローチを握り、魔法陣にそっとそれを置いた。
ブローチに触れた手のひらから魔力が奪われる感覚とともに魔法陣が起動する。
そして白銀の光が魔法陣の上を稲妻のように走り……。
ガチャンッと音を立ててビーカーが割れ、沸騰していたように泡立ち始めていた液体が飛び散った。
「フィア!!」
「きゃっ!?」
覆い被さるようにジークウェルト様が私を抱きしめる。そして液体は全てジークウェルト様にかかったのだった。
ポタポタと前髪を濡らす液体。
その液体が私にかからないようにだろう、ジークウェルト様が一歩後ろに下がった。
「……ジークウェルト様」
「ち、魔力が全部抜き取られた」
「え!? そ、そんな……」
ぐらりとジークウェルト様の体が傾いて、慌てて支えようとしてもちろん支えきれずに一緒に倒れ込む。
「……フィア嬢は何ともないか?」
「はい」
「そうか、それはよかった」
それだけつぶやくとその姿は大型犬に変わる。ジークウェルト様は魔力枯渇で眠りに落ちてしまい、結局この時点では何かが変わったのか確かめることはできなかった。




