魔法陣と副団長と大型犬
魔法陣の効率化を図る作業は、その分解と再構成の繰り返しだ。
ちゃんと魔力が流れるように繰り返し試行錯誤する気の遠くなるような根気のいる作業だ。
そして、魔力は少量ずつ流すにしても積み重なればかなりの量が必要になる。
「すごい……100回使ってもほぼ減らない」
ジークウェルト様にもらった大きな魔石のブローチ。そこに込められた魔力は思った以上に圧縮されていて何度使っても減る様子がない。
私の魔力だけで何とかしようと思ったら1年くらいかかったかもしれない、と感動しながら作業を進める。
そんな私の横には騎士団副団長、アルバート・ランディス様とジーク。
副団長様がページをめくるたびに、まるでじゃれるようにジークが前脚をのせていく。
(あれから、ジークウェルト様はジークの姿から元に戻っていないのよね。……戻れないのかしら)
遊んでいるように見えるけれど、実は重要書類を承認するか否かを前脚で示しているらしい。
チラリと視線を送る……やっぱり可愛らしい。副団長様は真剣な表情だけれど、やっぱり愛犬と遊んでいるようにしか見えないのだから。
最後の一文字を書き上げ、魔力を流せば魔法陣は淡い白銀に光り輝いた。
「……それにしても、思ったより時間がかかってしまったわ」
ようやく完成した魔法陣は、今風にアレンジされている。これなら以前より格段に少ない魔力で起動できるだろう。
ここまでに1週間かかった。
と、いうのも食事時間はもちろん合計8時間経つとジークが私の裾を引っ張り休ませようとするのだ。
不眠不休なら三日三晩でもできただろうけれど……。
「どうかしら?」
私がそう口にするとジークが駆け寄ってきた。その走りは完全に脚が治ったらしくもうピョコピョコとはしていない。
目の前まで走り寄るとジークの体が白銀の光に包まれ、急に背が高くなる。
「ふう……久しぶりに人の姿になるとバランスがとりにくいな」
グシャリと前髪を掻きあげたジークウェルト様は、その色気による自らの破壊力をきっと知らない。
私の心臓はこんなに壊れそうなほど高鳴っているというのに。
「……相変わらず、頭が理解を拒むほど緻密な魔法陣だな」
「そうですね。あと一月あればもっとシンプルにできるのですが」
「これで十分だ。君の体が心配だし、人の姿に戻らずに魔力を温存しておいたからな」
ここ1週間、いつでもそばにいてくれたジーク。
「君がジークが俺だということを忘れる前に片をつけたいからな」
「そんな」
「そんなことないと言えるのか?」
「うぐ」
そう、時々大型犬がジークウェルト様だと忘れた私は、ジークとの距離が近すぎた自覚はある。
「すぐに元の姿に戻ってしまいたかったが……そんなときに限って上手く元に戻れなかった俺の気持ちも考えてくれ」
「えっ!?」
「自在に行き来できるようになったら、君は覚悟しておくべきだ」
「ふ、ふぇ!?」
少々意地悪な笑みを浮かべるとジークウェルト様は魔法陣が描かれた魔法紙を手にした。
「さあ行こうか」
「は、はい」
「はは……可愛いな?」
「揶揄わないでください」
「君が可愛過ぎるのがいけない」
「うう……」
ジークウェルト様が私の手を引く。こうして私たちは、再びリアス先生の部屋へと向かったのだった。
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