Hello,world!(1)
それからレイは何度か一華の前に現れた。
「また来たんだ。暇なの」
「暇じゃないよ。酷くない、せっかく来たのに」
「暇じゃないなら、そっちを優先したらいい」
「でもさ、この世界って窮屈だから。そこから外れたあなたと話すのは心地良い」
「人を社会不適合者みたいに言うな」
「社会不適合どころの騒ぎじゃないよ。だって、死んでるんだから」
何も言い返せない。
「私も死んだら、そっちに行けるかな」
「勧めはしない。死んだら終わりだよ」
「説得力ないよ」
「少ないけど、会いたい人がいた。もう叶わない」
彼女が黙ってしまうのを見て、彼は話題を変える。
「ごめん、明るい話をしよう。えと、ほら、もうすぐ夏だね」
「夏は嫌い。暑いし、ベトベトするし」
「でもさ、なんか夏ってだけで楽しげじゃん。海とか山とか、祭りとか」
「人のいる場所に行っても、余計に孤独を感じるだけ」
一華は考える。彼女の孤独に対し、何かしてあげられないかと。
「行ったら意外と楽しいよきっと。土産話、聞かせてよ」
「嫌だって言ってるのに」
それからさらに数日が過ぎ、タイムラインに異変が起きた。きわめて感染力の高い脳炎が現実世界に蔓延しているようだ。
「そっちは大変らしいね」
「うん、身近にかかった人はいないんだけど。こう言ったら不謹慎かもしれないけど、実感が湧かないんだ」
彼女は続ける。
「なんかさ、検査してくれるらしいんだけど。行った方がいいかな」
「そりゃ、検査した方がいいに決まってる」
「でも、なんかちょっと怖い」
「怖いって、子供か」
「もしかしたら、本当はそんな病気なんてないんじゃないかって。画面越しにしか見てないのに、本当だって確信できない」
「でも、そんな嘘ついて何になるんだよ」
「例えば、検査をすることが目的だったら」
「検査してどうするんだ。待てよ、脳をスキャンして調べられたら、それをコピーすることだって」
電流が流れる。裂け目の向こうから、苛立ちをたたえた声がした。
「それ以上は言っちゃあ駄目だ」
それから一華は、もう一度レイの方を向き言う。
「とにかく、逃げて」
彼女は困惑したようだったが、やがて逃げることを決めた。
暗い部屋に、一人の訪問者があった。
「ネバーランドを私物化するなと、何度言ったらわかる」
「私物化も何も、私が作ったものなんだが」
「権利は我が社が買い取った筈だ」
「金儲けしか分からん君らには、何を言っても無駄らしい」
「金は偉大だ。大体のものが買える」
「だが命は金で買えない。私も君たちも、いつかは死んでしまうんだよ」
「なるほど、そのためのネバーランドというわけか。実に馬鹿げている」
「永遠の命、この響きに思うことはないか」
「興味がないわけではないが、それ以上にお前の思うままになるのは不愉快だ」
「もう、帰ってくれ」
訪問者が退出する。暗い部屋を、ただモニターの明かりだけが照らしていた




