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第九話 使い魔の枷

「けん、けんじゃさん。こっちもちりょう、おねがいしましゅ」


 遠くからアンジュが言った。

 忘れていた。

 魔法弾を食らったアンジュは顔の半分が焼けただれていた。

 ボロボロだった服はもはや燃えかすの様になっている。


「あーその、このあとでだいじょうぶれすよ」


 顔の表面のやけどで上手く口が動かせないらしいアンジュがたどたどしく言う。

 言われなくてもそのつもりだ。

 見た目はアンジュのほうがひどいが、死に近いのはリリスの方だろう。


「待ってろ」


 そう言ってリリスの治療を開始した。


「《ヒール、回復せよ》」


 使い魔には魔法が効きやすいとはいえ、魔族には聖魔法であるヒールの効果が薄い。

 今まで魔族や魔物を回復させたことはなかった。

 アンジュを治療した時の二倍くらい時間がかかりそうだ。

 切りつけるくらいにして、腕を落とさなきゃ良かったな。

 

 血を止めて、魔力を送って、床に流れ出たリリスの血と土から新しく羽と腕を作りくっつける。

 リリスは回復をしている間中一言も発さなかった。

 無言で黒い床の上でビクビクと体を跳ねさせるリリスは、気味が悪い。

 悪魔に取りつかれた人間のようだ、って魔族なんだから悪魔そのものなんだけどな。

 小一時間後、リリスの羽と腕は元に戻った。


「体は問題なく動くか?」


 俺の魔法だから完璧なはずだが、念の為にリリスに聞く。

 リリスは俯き、床に座っている。

 答えないなら放っておいていいか、とアンジュの治療をする為にリリスに背中を向けた。


「油断したな!人間!」


 リリスが言い、襲いかかってくる。

 なんだ、そんなに大きな声が出るなら大丈夫だな。

 俺は気にせずアンジュのところへ行き、治療を始めた。


「《ヒール、回復せよ》」


「ありがとうございます!賢者さん!」


 アンジュの顔の火傷がみるみるふさがり元の白い肌に戻っていく。

 エルフには聖魔法が効きやすいんだよな。


「あのう、リリスちゃんは大丈夫ですか?」


 アンジュが振り上げた腕をそのままに、身動きが取れなくなったリリスを見ていった。


「もう俺の使い魔になってるからな。俺に攻撃しようとしたら勝手に枷が発動する」


「すごいですね」


「なぜじゃ!なぜ体が動かぬ!?」


 リリスは拘束を振りほどこうともがく。

 俺を睨みつけて必死に体に力を込めるが、何も阻むもののないはずの手足は動かない。

 そのうちに、リリスの腹に刻まれた所有印から、トゲのついた鎖が出てきた。

 

「なんじゃこれは!?」


「使い魔なんだから、マスターに逆らっちゃダメだろ?」


 愉快だ。


 鎖はシュルシュルとリリスの体に巻き付いた。

 鎖についたトゲがリリスの肌を裂く。

 全身から血を流して真っ黒になったリリスがまた泣き始めた。


「いたい、いたいいいい!外れろ!外れろ!」


 この鎖は、使い魔の主への敵意が消えるまで使い魔を苦しめるものだ。

 リリスに絡みつく鎖の量は増えている。

 くい込む力も強くなっているし血も大量に流れている。


 主への敵意が増えれば増えるほど鎖も増える仕組みだが、わざわざ教えてやる義理はないな。

 諦めるまで放置しておこう。


 魔力回復の魔法をリリスにかけて、一応死なない様に措置をした。


「賢者さん、あの、もう一回聞くんですけど、リリスちゃんは大丈夫ですか?」


 回復魔法ですっかり傷の消えたアンジュがおずおずときく。


「なんだ、世界を悪で埋め尽くす、だなんて言ってた癖に、優しいこったな」


「そうですけど…あのままだと死んじゃいませんか?」


 アンジュはボタボタと黒い血を流し鎖で拘束されているリリスを指差して言った。


「大丈夫だ。回復の魔法もかけてるしな。せっかく手に入れた使い魔を殺すなんてヘマ、やらないさ」


 前に一回、回復魔法をかけずに放置して、ゴブリンを殺したことがあったが、それは言わないでおこう。


「さすが賢者さん!生かさず殺さず、ですね!」



 動けないリリスを横目に、俺たちは宝物庫の探索を再開した。

 リリスが入っていた柩も、黒曜石と銀で出来ていた。

 これも売れば高く値がつく。


 もっとも、魔王の娘が眠っていた柩だと、持ち主が次々に死ぬような呪いのアイテムになるだろうが。


 しばらく物色していると、壁に扉らしきものを見つけた。

 ほとんど壁の模様と一緒だが、かすかに模様とズレがあり、取ってのところに水晶がはめ込まれている。


 水晶に魔法を込めると開く扉のようだ。

 この水晶は魔法で個人を識別できる。

 セキュリティに気を使う場所はこの手の扉が多い。


「また隠し扉か」


「うわあ、次は何が出てくるんでしょうね!」


 アンジュが声を弾ませる。

 魔王の娘よりも隠しておきたいものって何があるんだろうか。

 見当がつかない。


 リリスの方を見るが、リリスは鎖にぐるぐる巻きにされてもう話せない状態になっていた。

 鎖が増えてるってことは、敵意はますます増えてるってことだな。

 どれだけ俺に従うのが嫌なんだ、こいつ。

 リリスの敵意の量に不快な気分になる。


「開けます?開けちゃいます?」


 またひどい目にあいそうなのにこいつの好奇心はすごいな、とアンジュに感心する。


「ああ、開けよう」


 俺も中に何があるのかは気になるしな。

 扉にはめ込まれた水晶に手をかざし、魔法を込める。

 扉は開かない。

 魔族でないと開かないのだろう。


 俺は鎖で体を覆われているリリスのところに行き、リリスから流れる血を杖と右の手のひらに垂らした。


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