第四十八話
冥が死んだという報せを聞いたとき、清盛の心は乱れた。
「死」という事実を認めてみたものの、もしかしたら、という根拠のない期待がかすかに意思のどこかにひそんでいた。
だが、やはり―――と思い定めると、彼のなかで会いに行かねばという思いが湧きあがってきたのだった。
冥はおだやかな死に顔をしていた。
難産の末の死だった。
妻が夫のために家のために子を産むのがあたりまえだからといっても、おのれのせいでこうなってしまったのだと思うと、清盛は心のやりどころに困った。
「姫さまは丈夫な男子をお産みあそばされました」
どうぞ抱いてやってくださいと言いながら、婆が差し出した小さな嬰児を見たとき、清盛のなかに漠然とした苛立ちが湧きおこった。
俺は何をしているのだろう。この弱りきった嬰児にも、甘えん坊の盛りの千歳にも母親が必要なのに・・・。
「婆さんは、これからどうするんだ」
「わしは姫さまが赤ん坊の頃から仕えておりました。出家して菩提を弔うのが、乳母としての務めでありましょう」
この邸内で冥の味方は、婆だけであった。
冥は彼女の母親の不義により生まれた子であったから―――・・・
清盛は婆を見た。
出家はこの年老いた婆にとって、最後の忠義、いや、冥に対する愛情なのだろう。
清盛はわが子二人を連れて邸を出た。
懐に生まれたばかりの赤子を抱き、馬の鞍には千歳丸を乗せてやった。支える者もないので、必死で鞍にしがみついている。
清盛は赤子を百代丸と名付けた。
ぐずってばかりの赤子。本能的に不安になるのだろう。
「泣くな百代。雲の上の母ちゃんが心配するじゃねえか」
晩冬の風は、まだまだ冷たかった。