第四十一話
中天の陽がいやに白い。
たった数年足らずをともに過ごした女の死が、それほどつらいのか?
妻の死を苦に出家してしまった渡。
検非違使の追補を逃れ、姿をくらました盛遠。
夫のために死を選んだ袈裟を烈女と称えた清盛。
「烈女?」
言うならば貞女であろう。
義清は、ふと視線を落とした。
小さな女童が袖を引いていた。
どうしたのと問えば、向こうで雪だるまを作るのだと言う。
「わかった。手伝うよ」
義清は女童の導くままに歩いた。
いくつかの舎屋の横を通り、立派な寒椿の植え込みをすり抜け・・・
義清はさすがに不安になった。
警護場所を離れるだけでも咎められることなのに、ここの局は・・・。
「ま、まってくれ。俺はこれ以上は行けない」
女童はきょとんとしたが、笑って雪のうっすらと積もる柊の木の向こうを指さした。
そこは小さな庭であり、春になればさぞ美しい花を咲かせるだろう草木が植えてあった。
その中央で数人の女童や男童、小舎童が雪遊びをしている。
髫髪の下に見える白い項になつかしさを感じた。
おのれも小さい頃は雪が降るとはしゃいだものだ。
寒さなど気にもとめず、一日中雪のなかを走りまわった。
雪だるまも作ったし、雪玉をぶつけて遊んだりもした。
今、少しでも寒さを防ぐために襟元をかきあわせている自分に、彼は苦笑した。
「さあ、やるか。大きな雪だるまを作ろう」
子どもたちとふれ合っていると、心が晴れる。
自然のなかにあって、自分もまた小さな子どもだ。
その時、突如吹いた烈風。
それは義清の運命を変えるのに十分すぎた。
寒冷をはらんだ旋風は鋭さを増して義清の顔に斬りかかってきた。
「あっ」
彼はとっさに目を閉じた。
風は勢いやまず、蔀を震わせ妻戸を開かせ、御簾を揺らめかせた。
そして、彼は見た。
いや見てしまったのだ。見てはいけない、その人を。
物語の中のように、いたずらな風が御簾を払い、美しい貴人を垣間見せたのだ。