第二話
「紅よりも紅梅。影、おまえにはこれが似合うわ」
鏡台にかけられた鏡をのぞき込み、女御は言った。
「姉さま。姉さまも、お着替えをなさらないと。湿ったものを召したままでは、風邪をひいてしまうわ」
「わたしのことはいいのよ。さあ、早くしなければ、法皇様がお着きになってしまいますよ」
姉にせかされ、影は帯をとき、小袖を肩からすべらせた。
真白い双の肩が露わになり、仄暗い室内がぼうと明るくなったかのように見えた。
女御は目を細め、影の裸体に見入った。
長く伸ばされた垂髪はヒオウギの種子のごとき黒。今を盛りの白い肌は絖のようだ。
見慣れている体のはずなのに、何かがちがう。
肩。
肩が丸い。いや、体全体がふくよかであった。
乳房も心なしか大きく、白いと思っていた肌も、よく見れば青白く透きとおっている。
―――妊娠
女御は動悸がするのを感じた。
女御自身は、女の盛りはとうに過ぎている。
法皇の足が遠のかぬようにするためには、年の離れた妹を差し出すしかなかった。
女御の意思で決めたことだ。後悔はしていない。
しかし、御子を宿した妹に、少なからず憧れの心を抱いた。
自分は子を産めぬ体だ。
なぜこうも、情けをかけてやった女ばかりに裏切られるのだろう。
「姉さま、姉さまっ」
鏡のなかの影の顔が、心配そうに姉を見ていた。
「なんでもないのよ。ほら、こちらを向いて。とても綺麗よ」
鏡に映しだされた姿は、その名が示すとおり、控えめで目立たぬが、狂おしいほどに可憐であった。
「お久ぶりのお越しですもの。うんと着飾って驚かしてさし上げましょう」
女御は妹の肩に手をおき、にっこりとほほえんだ。