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第二十二話  その日、その時

この話の前に、一週間ぐらいの出来事としてチーム・ドルフィンのレッスンその二の練習風景を書いてみたのですが、ちょっと冗長かつ、構成的に余分な気がしてカットしました。流れ的には、このほうがいいと思うのですが……。

最後まで書いてから、復活させるかどうか判断したいと思います。


 ――そして、ついに、その時はおとずれた。


 それは、不思議な体験だった。

 チーム・ドルフィンの全メンバーとあたらしいフォーメーション、戦術の練習をはじめてから、三試合目のことだ。


 それまでの二試合では、相手側もとまどっただろうが、実のところやっている僕たちが、一番とまどっていた。

 やはり練習と試合とではまるで感覚がちがう。それに、僕たちのやろうとしていることは、いままでのファウンデーションボールの常識から相当にはずれたことだ。


 一試合目、チーム・ブラックベアーとの対戦では、いままでのワースト記録を更新した。もうボロ負けだ。きっと、だれにも僕たちがなにをやろうとしているのか、わからなかったことだろう。

 でも、だれも気落ちするものはいなかった。勝敗はともかくとして、僕たちは、その一試合でなにかをつかみかけていたのだ。


 二試合目は、チーム・チャイカが相手だった。この試合をみていただれもが驚いたことだろう。ランキングでは、上位二〇チームにはいっているチャイカと最下位のドルフィンが、接戦を演じたのだ。


 結果は、六点差で、ドルフィンの敗北だった。けれど、試合終了後、僕たちは、まるで優勝したかのように抱き合い、大騒ぎした。チャイカ相手に、ここまで詰め寄ったことはなかったし、試合内容では、むしろこちらが圧倒していたからだ。


 チーム・ドルフィンが、なにかおかしなことをしようとしている。このうわさは、あっという間に全対戦チームにひろまった。


 そしてむかえた三戦目。相手は、ホーネット。僕を目の敵にしているテッドが、リーダーを務めるチームだった。

 こんな下位チームの試合にもかかわらず、観客席は満員。ネットの接続数もずいぶんと多かったらしい。


「おまえらのクラブハウス、きれにしておいてやったぞ。感謝しろよ」


 試合開始直前、テッドは、わざわざ僕にそんなことをいいにきた。

 ……なるほど、あの落書きは、おまえたちのしわざか。

 よーくわかったよ……。


「チーム・ドルフィン! ゴー!」

「「「「「「「「「「「チーム・ドルフィン! ドルフィン! ゴー!」」」」」」」」」」」


 そして、前半戦。

 ホーネット、一六点。ドルフィン、一四点。ほぼ互角の試合内容だった。


 そして、むかえたハーフタイム。

 思うように開かない点差に怒りといらだちに煮えたぎるホーネットに対して、僕たちのほうは、不思議な静けさのなかにいた。


 もちろん、今日こそ勝てるかもしれないという予感に、みな闘志を燃やしていた。だが、それは相手をたたきつぶしたいという衝動からくるものではない。僕たちは……そう、ファウンデーションボールを心から楽しんでいた。


 自分たちの一挙手一投足に。

 わきたつ観客の声援に。

 ランダムに飛ぶボールの軌跡に。


 なにもかもが新鮮でクリアでよろこびにみちている――。


 こんな気持ちは、僕をふくめて、みなはじめてだった。


 剣をすて、純粋なスポーツとしてファウンデーションボールをプレイすることが、こんなにも心踊ることだったとは――。


 僕たちは、後半戦のはじまりをいまやおそしと待ちかまえていた。

 全力で相手にぶつかる。いま持てる力をすべてだしきる。勝敗などは、その結果としてもたらされるものだ。


 そして、僕たちは、精一杯プレイした。


 結果は、後半戦、ドルフィン、十八点。ホーネット……十二点。トータル、四点の差で、僕たち――ドルフィンは、初勝利を手にしたのだった。


 その瞬間、勝った、という実感はなかった。


 僕たちは、まだ、プレイを続けたかった。この楽しい時間をもっと味わいたかった。

 だから、試合が終わってもみんななんだかポカンとして、どこかふわふわと現実感をなくしたまま、ロッカールームへとむかっていた。


 その通路をふさぐように、ひとりの青年が立っていた。


「初勝利、まずはおめでとうをいわせてもらうよ、クロフォード」


 チーム・ベイオウルフの漆黒のチームジャンパーに身をつつんだ、ギュンター・シューリヒトは、金色の髪をかきあげる。


「……だが、君は、この勝利の意味を本当にわかっているのか?」

「……みんな、先にもどっていてくれ」


 プロテクトスーツをつけたままの僕は、手にしたヘルメットをワンダに放り投げる。みんなは、なにか言いたげな表情で僕とギュンターを交互に見つめていたが、やがて、ぞろぞろと引きあげていった。


「ギュンター、勝利の本当の意味ってのは、どういうことだ?」

「君は、ファウンデーションボールを変質させたってことさ」


 ギュンターは、おそろしく真剣な顔で僕をにらみつける。


「あしたになれば、たぶん、どこのチームも君たちの戦術を分析して、ドルフィンとおなじようなチーム構成を採用するだろう。もちろん、剣をすててね。君たちは、委員会を通すことなく、あたらしいルールを設定してしまった。非公式なルールを――」

「いいことじゃないか。僕は、剣で攻撃しあうようなことは、もううんざりだ。怪我をするのも、怪我させられるのもごめんだ。みんなが、剣をすてて、スポーツマンらしい態度で、ファウンデーションボールを戦うなら、僕たちは大歓迎だね」

「うんざりだろうが、なんだろうが、僕たちは、ファウンデーションボールというルールの枠内できちんと戦い、結果をだすべきなんだ。君は、本質を読みまちがえている」

「本質? 楽しく、フェアにプレイする以上のことがあるとは思えないな」

「やれやれ、君は、本当にわかっていないんだな……」


 ギュンターは、僕を蔑むような冷たい瞳で見つめる。


「――いいだろう。ドルフィンは、好きなようにやるがいい。だが、僕たちのベイオウルフは、ぜったいにスタイルを変えるつもりはない。そして、かならず優勝し、個人タイトルもとってみせる。自分たちが正しいと思うなら、それを阻止してみせろ、クロフォード」


 それだけいうと、ギュンターは、踵をかえす。


「まてよ、ギュンター」

「はやくここまで上がってこい、クロフォード。おまえを叩きつぶしてやるからな。待っているぞ」


 そして彼は、ふり返ることなく去っていった。


 正直な話、僕は困惑していた。あたらしい戦術に自信があるとはいえ、チーム・ドルフィンは、一勝したにすぎない。優勝候補筆頭のベイオウルフが、なにをそんなに警戒することがあるだろうか……。


 だが、僕は、ギュンターのいうとおりなにもわかっていなかった。


 僕たちは、たしかに、ファウンデーションボールを変質させてしまったのだ。


 もうすこし後で、そのことを目の当たりにした時にも、僕たちはのんきであった。より良い方向を指ししめせば、人はついてきてくれる。それぐらいに考えた。


 しかし、それは先の話だ。


 僕は、人気のなくなった通路を、歩きはじめる。

 仲間たちの待っているロッカールームへむかって――。


この回も最後まで書いてから、加筆するかもしれません。とくに、第一戦のブラックベアー戦は、もうちょっと具体的なエピソードが必要な気がしてきました……。

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