第二十三話 祝!
ロッカールームに入った瞬間、すさまじい音と極彩色の乱れ飛ぶホログラフィーが僕を出迎える。
「なっ、なんだなんだ!?」
「ほら! カズマ! 勝ったんだぞ、喜べ! 喜びやがれ!」
アレッサンドロが、僕をはがいじめにする。く、苦しい……。
僕がギュンターにつかまっている間に、みんなは勝利の宴をはじめてしまったのだ。
リーダーである僕がいないのに!
なんて、薄情な奴らだろう……。
「こら! なにしけたつらしてんだ、飲め! 飲みやがれ!」
なにやらグラスにはいったあやしげな液体を、僕におしつけるアレッサンドロ。
ちょっ、ちょっと待ってくれ。
「おい! これ、まさかアルコールじゃないよな!?」
「ったりめーだ! 委員会に処分されるようなこと、するわきゃねえだろ!」
そう言いはなつアレッサンドロは、やたらとくさい息を僕にはきかける。
嘘だ!
ぜったいにおまえは嘘をついている!
「なにグダグダいってんの!? ほら、あんたが主役なんだから、パーとやんな!」
僕は、プロテクトスーツの腕をワンダにつかまれ、部屋の中へと引っぱりこまれる。
「カズマ、そんなのはやく脱いじゃいなよ。あっ、あたしが脱がせたげる」
イヒヒと笑いながら、シィインがせまる。や、やめてくれッ!
「よし! 脱がせろ! 脱がせろ!」
「ブーブー!」
たちまち、みんなが僕にのしかかり、解除レバーをめちゃくちゃにひきまくる。
その後は、とにかくもうムチャクチャ。
すべてが暗転する――。
そして、ようやく意識を取り戻したものの……
なにも……思いだせない。というか、思いだしたくもない……。
「うっ……」
はげしく痛む頭をかかえながら覚醒した僕は、目の前の光景に、ふたたび夢の世界に逃避しそうになる。
ロッカールームは、自殺するレミングの群れに踏み荒らされたような有様で、そこかしこで、轢死体のようなメンバーたちが転がっている。
いくらなんでも、このバカ騒ぎはないだろう。まあ、僕も参加したんだから、批判はできないのだけれど……。
「カズマ、起きた?」
サラフィナが、僕に声をかける。そちらを見ると、いつものクールな態度で、あやしげな液体を流しこんでいる。
まだ、飲んでいるのか!?
っていうか、なんで平気なんだ?
「ねえ、カズマが気絶している間にみんなで話たんだけど、そろそろ例の秘密のコーチのこと、教えてくれてもいいんじゃない?」
「えっ? コーチって……?」
「そう、そう、初勝利のお礼もいいたいしね」
「直接、指導をうければ、もっとつよくなれるかもしれないよな」
僕とサラフィナの会話をきいていたのか、そこここで、ゾンビのようにみんなが起きあがる。ちょっとこわい。
「僕ら、想像してたんだよ。あんなダンスやユニークな戦術を考えたカズマの知り合いって、どんな人なのかって。僕は、歴史から抹殺された伝説のワールドチャンピオンなんじゃないかって思うんだ」
瞳をキラキラさせながら、ヤーコフがめずらしく長いセリフをしゃべっている。
「いや、表に顔をださないってことから考えると、現役監督じゃないかな?」
いつもめんどくさそうなサイードが、身をのりだして語る。
「仮想ゲームで遊んでいるオタクだと思うね」
「じつは、カズマの一人芝居だったりして……」
「こいつにそんな頭があるかよ。ぜったいに、委員会のじじいのひとりだぜ」
「わたしは、複数いるとおもう。ひとりで、いろんなこと考えるのなんか、無理だから」
「それはどうかなぁ?」
「いや、まずはボクの推理をおききなさい」
「覆面した現役のプロ選手で、カズマの生き別れのお兄さんだと思うな」
喧々囂々とはこのことだ。僕は、みんながフィリスについて勝手な憶測を並び立てるのを、唖然としてきいていた。
だが、考えてみると、今回の一勝は、フィリスのおかげだ。みんなが彼女に会いたいという気持ちもよくわかる。
だが、フィリスは、研究区画と港宙ロビー以外動くことができないし、会いにいくといっても、一般人が気軽にいける場所でもない。
それに、本音をいえば、僕は、心のどこかで彼女とすごす一時を、自分だけの大切な時間のように感じていたのだ。
「どうなの、カズマ。そろそろ正解を教えなさいよ」
「……わかった。でも、本人の同意を得ないといけないから、あしたまで待ってくれ」
僕は、じりじりとせまってくるワンダに、そうこたえる。
そうだ、フィリスはずっと研究区画ですごしてきたといっていた。同年代とはいえないが、それでも友だちができるのは、いいことのはずだ。それを嫌がるのは、僕のエゴにしかすぎない。
チーム・ドルフィンのメンバーたちは、いま最高の仲間になりつつある。ならば、彼女をその一員にくわえてやりたい。
そう決めると、意外にも僕の心は、はればれとしていた――。




