第四十三章
「『穿て、灼熱の大槌。闇を照らし、光をもたらせ。《ヴォルカニック・フレア》』」
「『轟け雷鳴。空を裂き、地を舐め尽くせ。《ライトニング・スコール》』」
『万物一切、灰塵と化せ!《ダンシング・フレイム》!』
レイルとクロハは、帝国軍の陣を突き進んでいた。群がる人形は時に斬り、時に魔法で吹き飛ばしつつ。二人の行軍を阻む事が出来る存在はおらず、ただ一直線に、本陣へと迫っていく。そこへ、大量の雨が降り注いだ。ただしそれは水ではなく、魔力によって形作られた砲弾だが。
「クロハ、物理障壁全力展開!吹き飛ばされるなよ!」
レイルが取った行動は回避ではなく、発生源の確認。砲弾の嵐はより強力な魔法で弾き、同行するクロハは障壁の中へと身を隠す。晴れた視界の奥、そこには百に至るであろう数の砲門が見えた。かつてレイルが地に伏せる要因となった、前時代の遺物。大量生産されたその模造品が、その光景を生み出していたのだった。
「のんびりしてる場合じゃない、ってね。シャル、急ぐよ!」
「ようやく全快した所だってのに、人使いの荒い奴らだぜ。まあ、乗りかかった船だ。最後まで付き合ってみるか!」
シャルロッテとリュージュ、ユーリの三人は奇しくもレイルのいる戦場、すぐ傍までやってきていた。人員を三方向に分け、リーエや他の将軍と面識のあるジェノスは、皇国軍の抑えに回っている。単独で一軍を相手に出来る人材が、後はミネルバしかいないという理由もあったのだが。
(シャルロッテさんは元々、かなりの能力を持っていましたが……。意外ですね、リュージュさんまで、これだけの成長を見せるとは。ミネルバの無駄な扱きが、珍しく良い方向に作用したんでしょうか?)
後ろを走るユーリは二人を見て、静かに笑っていた。次代を担うであろう人材を前に、心が躍らない教育者などは存在しない。群れてくる人形を前に、二人は一歩として譲らない。只管に先を急ぎ、果たすべき目的へ進んでいった。
「さ、流石にあの数は堪えるな……。クロハ、魔力の残りは十分か?」
「うん、まだまだ余裕。らしくないよ?ここはさ、レイル君なら笑って立ち上がる場面でしょ?」
一緒に過ごしてきて、彼の強さの理由が少し、分かった気がする。多分、レイル君は誰よりも『怖がってる』んだ、って事。失う事も恐れているし、傷つける事も怖い。だから、自分が先頭に立って歩くし、いつだって一人でいようとしてきた。一番に気に掛けるのは周囲にいる人で、自分はいつだって何でもない、って風に見せる、精一杯の強がり。それでも時折弱さを見せるのが、ちょっと可愛いと思った。そういえばこうやって二人でいる間も、いつだって私の事を気にしてくれている。
「さ、次で最後だよ?いい加減に終わらせよう、こんな戦争」
正直に言えば、もう魔力は限界に近い。立ち上がっても膝は折れそうで、手も震えがきていた。それでも、だからこそ立ち上がる。私の『強さ』を、世界で一番大好きな人に見せたいから。




