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Folktale-side DARKER-  作者: シブ
第二部
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第三十六章

 遠くにそびえ立つ、強大な城。大陸北部、ジューカス地区における最大級の城で、集められているのは、その全てが帝国軍将軍格。ここさえ陥落させれば、帝国軍の戦力は大幅に削られる事になる。当然、それだけ防備は整っているはずだけれど。

「探知魔法、一応使ってみたよ。頑丈な結界があるみたいで、城壁の向こうは見えなかったけど」

 地面に簡素な図面を描き、クロハの説明に耳を傾ける。城壁の外は大量の魔法陣が敷かれていて、見た限りではモンスターやら何やらの召喚に使う術式、との事だった。クロハの見立てなら、ほぼ間違いは無いけど、厄介なのはその数だった。四方にあるだけならいいが、物見の死角を無くすように、無暗と敷設されている。それだけの魔力、何処から調達しているのか……。

「剣みたいな物が、城壁の上に刺さってたんだ。見えた範囲では、六本位かな?綺麗に突き刺さってるし、法則みたいなのもあるから、必要な物みたいだけど―――」

「魔剣、だろうな。俺が持ち出した物以外は全部、連中が奪い去ってる。剣の魔力を抽出、魔法陣に注入してる可能性は高い。まさか、そんな知恵を持つのがいるなんて」

 正直に言えば、俺も何度か考えた方法だ。ただ、『担い手』でもない俺にはその方法が取れず、別の手段で魔力を取り出す事が出来なかった。アヴェンジャーとドラゴンバスター、この二本以外、俺を認めてくれた剣は無かったから。確かライラとグリンの二人は、数本の魔剣を『担い手』として所有していた。多分、刺さっているのはそれだろう。

「まず、魔法陣から無力化する。俺が前に出るから、援護頼む。上級召喚は殆ど使えないから、クロハだけが頼りかな」

 召喚用の魔法陣を描いた布は、これまでの戦闘で全て使い果たした。新しく作ってもよかったけど、かかる時間と戦況を考えたら、そうのんびりとしていられなかった。流石に、詠唱に時間がかかるようなのを、毎回使うわけにはいかないし。その代わり、クロハには俺の知る限りの魔法を、可能な範囲で教え込んでいる。俺との連携に限って言えば、多分誰よりも効率が良い程度には。

「準備として、先頭を薙ぎ払う。風属性、任せていいよな?」

「もちろん。私の方で合わせるから、自由にやっちゃっていいよ?」

 頼もしい、そんな言葉が聞こえてくる。あの化け物が完全に起きた今、俺が使える水と風属性の魔法は、殆ど存在しない。中級は軒並み発動せず、何度か使ってきた古代魔法がやっとこさ、という程度だ。クロハとの相性は、多分抜群に良い。雷限定のシャル、魔法を殆ど使えないリュージュやゲイルでは、ここまで上手く回らないと思う。

「『契約に従い我に従え、奈落の王者。来たれ、灼炎の担い手。滾れ、漆黒の豪炎。我を焼き、彼を焼き尽くせ』」

「『契約に従い、我に従え、高殿の王!来たれ、疾風の現身。迸れ、灼熱の烈風。全て薙ぎ、悉く塵となせ!』」

『来たれ、常世の王者。全て飲み干し、灰塵と成せ!《ウィンディ・インフェルノ》!』

 《ライジング・インフェルノ》と《カース・ブリーズ》の合成魔法。タイミングを練習する事無く、クロハとの息は完璧と言っていい程に良く合う。詠唱の癖や早さが、俺と良く似ているせいだろうか?

「よし、風通しはだいぶマシになったな。援護、任せる」

 クロハが頷いたのを確認し、一気呵成と言わんばかりに突撃する。どうやら俺の真似をしているらしく、クロハも肉体強化の手法を覚えたようだった。ほぼ全力で走る俺の後ろに、ぴったりと張り付いてくる。うーん、そろそろ魔法技術でも追い抜かれそうだ……。


 魔力を与えられた炎は尽きる気配も無く、私達の遥か前方で燃え盛る。私程度の魔力だと、到底作り出せない光景。そもそも、そこまでの威力を持つ魔法は、私の知識には存在しない。古代魔法なんて、到底目にする機会は無いだろうから。

 どうして、ここまで事態は悪化したんだろうか、と時々考えてしまう。最初は確かに、皇国軍は劣勢に立たされていたらしい。電撃的に大陸東部の拠点を落とされ、反攻作戦を立てるにも、手勢が足りていないと聞いた。それでも組織力に揺らぎは無く、実際、戦線は徐々に東側へと動いていた。時期的に考えるとその頃か、あの兵士達が戦場に現れたのは……。

「レイル君、私の事は気にしなくていいよ?今はさ、この戦争を終わらせよう?」

 不意に口をついた、その言葉。ずっと気になっていた、彼の背中。初めて一緒に訓練場へ行った時から、その頼もしさに勇気を貰えた。後ろに立っていられる事、傍にいられる事が嬉しくて、何度も誘った。対象の試験場が同じだったから、それだけじゃない。そっか、私……。


 少女は今、その想いが何から来る物か、それを理解した。戦場という場で語るには対極にある、平和な感情。目指すべき背は今、手を伸ばせば届く所にあり、同じ場所に共に。

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