第三十一章
「何だったんだ、あれ?」
「大規模術式、ですね。神眼があれば良いのですが、私は道具作製のスキルを持たないので。近くまで行ってみますか?」
ゲイルとユーリ、シャルロッテの三人は、ムラートから程近い町にいた。レイルの目撃情報を求めてであったが、そこは完全に空振りであった。そもそも、探すべき場所が真逆なのだから、当然と言えば当然であるが。
「あたいだけかな、体が重いのは?何て言うか、こう……、とにかく力が抜ける。少しだけ、休ませてもらっていいか?」
その余波は、僅かではあるが、彼らのいる場所まで届いていた。純魔族であるが為、シャルロッテにも少なからず、影響を及ぼしたのである。多少なりとも別の種族の血が交わっていれば、その効果は薄れていたのだが……。
「珍しいな、シャルが弱ってる姿なんて。ほら、膝が折れてるぞ。無茶しないで、座っておけ。先生、これって―――」
「私にも、このような物に関する知識はありません。彼女にのみ影響が出ている所を見れば、間違いなく帝国側の魔法でしょう。特定の種族に対する、結界のような魔法、という所ですか……」
あらゆる軍、勢力に所属した事が無いユーリは、当然のように彼らが研究・開発した魔法に、何の知識も持っていない。学園でもそういった戦時下の遺物は殆どを引き継いでおらず、元々の関係者以外は知らずにいる物ばかりであった。
「いずれにしても、この状況であそこへ近づくのは、避けるべきでしょう。仕方ありません、一度引き返して、今日は別の街で宿を探しましょう」
「あははは!まさか、こうまで綺麗に決まるとは!見ましたか、連中の慌てふためく顔を!あんなに脆い種族が大陸の覇者だなんて、笑う以外に出来ますか?!」
そこには、大勢の術者が床に座り込み、息を荒くしていた。大量の魔力を一度に消費し、体力さえも奪われた姿。それらを気にも留めず、リエンは笑っていた。魔力を奪われ、地に伏せる魔族の兵士達。あるいは、体内のそれが暴走し、爆発する体……。一部の術者はその光景に吐き気さえも覚え、冷や汗を流す。万が一、これが自身に向けられたら。その場合に起こる悲劇を想像して。
「さあ、次の準備を。効果は抜群、ほぼ理論値通りの結果ですからねえ。魔族連中が対応策を練る前に、次々と撃っていきましょう」
「お言葉ですが、リエン様。術者の大半が、今ので消耗しきっています。せめて、半日程休憩を―――」
「何を寝ぼけているんです?その為に、あの人形があるんじゃないですか。魔力が無いなら、あれに働かせなさい。劣化のコピーとはいえ、同じ複製物なら無限に作れますからね。本体が無くても、複製品からなら、いくら複製しても劣化しないんですし」
レイルの両親を元に作られた、物言わぬ人形達。それらの用途は単なる戦闘用だけでなく、こうした儀式系統の魔法行使にも向いている。本体であるノイエやレクトリアの知らない魔法は扱えないものの、補助があれば、魔力を捻り出す事だけは可能なのだから。遊ばせている人数では、完全に補いきれないものの、半日もあれば同数のコピーを作る事は出来る。それを待たなかったのは単に、リエンが実験の時間を早めた故。
「さて、早く次の準備をしておきなさい。もしぐずぐずとしているなら、全員加工待ちの列に加えますからね?全く、忌々しい結界です。首都さえ攻撃出来れば、すぐに片付くものを……」
言い残し、リエンは部屋を後にした。人形と数人の協力者、彼らの助力があれば、この戦争は勝利で終えられる。その確信を持って、彼はあらゆる『モノ』を、単なる手駒と切り捨てていく。




