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Folktale-side DARKER-  作者: シブ
第二部
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第二十九章

 戦いは、半日以上も続いていた。大陸に現存する、或いは失われた魔法のほぼ全てを束ねる、魔族界の王者。対するは、魔族最高の切り札にして、魔王の血脈を受け継いだ女性。二人の間に優劣は無く、それは永遠に続く物だと思われていた。

「いい歳なんですから、さっさと負けてください、よ!」

「自分の息子に負ける程、耄碌した覚えはない。それより、そろそろ体が限界であろう?後の事は任せて、死人は早く自分の居場所へ戻れ」

 一方は慣れ親しんだ、自分本来が持つ一点物の武具。対する他方は、その辺りで拾った、市販される程度の剣。その差を埋めるのは、培ってきた自身の技術。周囲にいる兵達は皆、その戦いに見惚れていた。

「確かに、あなたになら任せられます。でも、悲しいじゃないですか。こんな方法で蘇らされたのに、息子にも会えないなんて。せめて、これだけは伝えておきたいんですけど、ね……」

 本人も気付かぬままに施された、幾重もの封印。全開となった今の魔力でさえ解けない、厳重なまでのそれが、まだ一つだけ残っていた。それは親の直感か、ノイエはそれを体で感じているのだった。

「封印の鍵、という奴か。だが妙だな、その類の式は人間共が得意とするはず。誰だ、奴にそれを施したのは?」

「俺の元副官、ルークですよ。あいつも半魔族で、封印系の術式には詳しいので。まさか、そう上手く事が運ぶとは、思っていませんでしたが」

 先刻とは打って代わり、ノイエの呼吸は荒く、激しくなっていった。魔法と呼ぶ程の力を使わずにいた為、レクトリアと比べれば長い時間、体は保たれていた。それでも、いつか限界は来る。それが、今。

「元々、俺とレクトリアの魔力は、魔石に封じ込めて渡してありました。いつか息子と会う事があれば、と言付けて。律儀に守ってくれるとは、思っていませんでしたけどね……」

 語る間も、その体は徐々に崩れ、砂となっていく。封印した魔力を束ねれば、その知識次第で様々な活用法を思いつく。それこそ、禁呪と呼ばれる魔法の大半は、行使が可能な程度には。それをしなかったのは単に、ルークの忠誠心ただ一つ。そしてその選択は、この時、大陸の行く末を大きく分ける分水嶺となった。

「成る程、貴様らは自身の安寧を差し置いて、子供の未来を守った、そういう事か。安心しろ、それは確実に、私が送り届けてやる。放っておいても消え去る運命だが、今楽にしてやろう」

 言って彼女は、目の前の息子に対し、剣を深く突き刺した。既に両腕は消え去りつつあり、頭から腰の付近までが辛うじて残る体。その胸元へ、深く、深く―――。

「昔から、損な役回りばかり、か。父を捨てて逃げ去る事となり、今度は息子まで手にかけるとはな。そこの人形共、今の私は例えようの無い怒りに、身も心も蝕まれている。立ちはだかると言うのならば、容赦はせん。その身、我が刃の前で塵と化すがよい」

 かつて、父親に逃げろ、と言われた。封印される間際に残した、一つの言葉。幼い頃とはいえ、戦う術が無かったわけではない。にも関わらず、彼は自身の身を投げ捨ててまで、娘一人を逃がす。それが何を意味していたのか、今まで彼女は知らずにいた……。


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