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Folktale-side DARKER-  作者: シブ
第二部
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第二十三章

 単身、ミレは敵陣へ乗り込んだ。手近な敵は斬り伏せ、遠くの弓や魔法兵は氷の礫が襲う。単純な行動パターンではあるが、それが他を寄せ付けない速度で行われては、誰も止める事は出来ない。

「ふ、この私相手に、水と風属性の魔法とはな。今時の兵共は、我が二つ名を知らぬと見える」

 生まれながらに精霊の加護を持つ彼女に、該当する属性が通用する術はない。どのような魔法行使であれ、精霊に傷を負わせる事は出来ず、中級程度であれば、逆属性にあたる魔法さえ無効化する。『アヴェンジャー』を携えた彼女に死角は無く、近接戦であっても、並大抵の将校さえ苦戦を強いられる。魔族界最大の切り札は、伊達や酔狂で務まるものではないのだから。

「とはいえ、この数を殲滅するのは一苦労か。私も、久方ぶりに―――」

 途中、視界の隅に一筋の閃光が走る。放たれるそれは、かつての英雄が誇った一撃。剣の限界を超えて使用された力はしかし、それを最後に砕け散る。担い手は一人、散っていく欠片を見つめ、走り出していた。

「『吹き荒れろ、雷鳴。駆け抜けるは嵐。深き森の主よ、呼び声に応え、力を示せ。加護を捨てた者にその光の慈悲を。清廉たるは星々の輝き、渇きを癒し、敵を討て。風を纏い、雷鳴を携え舞い上がれ』」

 以前ミレが見た頃と比べ、その破壊力は圧倒的に増していた。範囲外にあるはずの城壁さえもその余波で砕き、塵と化す。それを造り上げた実力も驚愕に値するが、最も恐れるべきはそれを扱う目の前の彼。自身でさえ成しえなかった、魔法の進化。その才を前に、彼が自分の血族である事を再認識していた。

「『来たれ、灼炎の王。我が身、我が魂を糧とし、その身をここに示せ。契約に従い、我に従え。漆黒の灼炎、紅蓮の疾風。地を焼き払い、蹂躙せよ』」

 現れたのは、炎を纏う竜。肉体そのものを炎と化し、触れる物全てを破壊し、焼き尽くす古代の炎竜。六匹の竜王種の中でも最も獰猛とされ、かつては大陸の覇者と呼ばれていた種。禁呪を合成されたその姿は、最早単なる召喚と呼ぶ事は出来ない。なにせそれは、かつて栄華を誇った竜王の姿、まさにそのものなのだから。


「馬鹿な……。古竜種の召喚魔法を使えるとは聞いていたが、まさかあれらにロスト・スペルを合成する、だと?父上でさえ放棄した物を、あの年で完成させるとは……。奴の能力、底を知らぬとでもいうのか」

 ミレの前で、合成した魔法を披露したのは、実はこれが初回であった。《アポカリプス・エッジ》は修行段階で一度見せてはいたが、それ以外では単なる召喚魔法とロスト・スペルを含む禁呪のみ。召喚魔法、それに関する一切に関しては、全てを伏せていたのだった。

「『来たれ、異界の黒炎。永久の闇、久遠の業火。荒ぶる闇を解き放ち、全てを飲み干せ。汝、常世の覇者よ。炎を携え、冥界を彷徨え。《ダーク・イグニッション》』」

 予め作った魔法ではなく、その場での即興魔法。記憶している術式とその詠唱文を掛け合わせ、名称のみをその場で構成していく作業。効果が無いと知れば、別の属性や種類を試し、既にその数は五十を超えていた。敵兵の数は見る間に減少の一途を辿るも、無傷である兵は数を増していく。邪法に邪法を重ねた研究者が夢見た、不滅の兵隊。残っている者は全て等しく、一定以上の強化を与えられた存在ばかりであった。レイルはそれを一瞥し、更なる詠唱を重ねていく。未だ効果が残る魔法に対し、別の魔法を上乗せしていった。

「『貫け、光の刃。深き森の王よ、朋輩を携え、地を駆けろ。流浪の民よ、風となり、全てを切り裂け。《ホーリー・ウインド》』」

 突風が吹き荒れ、地面に立っていた兵は全てが、悉く吹き倒されていく。倒れていた兵は堪える者さえ巻き込み、浮くようにその姿を消していった。それを遠巻きに見ていたミレは、自分の肌に薄ら寒い物を感じ、体を震わせている。

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