第十七章
正直、厳しいと言わざるをえない。レイル君が示唆していたのは、恐らく能力の覚醒。確かに全員、開花させられる可能性はある。その為にわざわざ、専用のプログラムを分散させて、授業に組み込んでいたのだから。
「テリー君とリュージュちゃん、クロハちゃんはいいんだけれど……。やっぱり問題は、ショウ君よね~。今の時点でこれだと、途中で良くて廃人、下手をすれば木端微塵になるわよ」
事実、覚醒の失敗で再起不能になった生徒を、何人も見てきた。今やらせているのは、初期段階の肉体鍛錬。第二段階の精神修養へ行くには、まだ到底実力が足りていないから。最後は、一番調子の良い状態の自分と戦うのだから、精神面から鍛えなくては話にならない。
「シャルロッテさん、ゲイル君の方は準備万端です。流石にこの二人は、成長速度が違う。恐らくですが、今日中にでも最終段階へ行けるでしょう」
「ええ、その二人に関しては、素質が違うもの。流石にレイル君程の出鱈目っぷりは無いけれど、生まれも育ちも引けはとらないわよ?」
四人から遠く離れた場所で、ユーリと話をする。到底、あの子達に聞かせられる内容ではない。本当なら、こんな無理なやり方で覚醒させるのは、私の主義に反するのだけれど……。
話は、二日ほど前に遡る。レイルが言っていた、自身に付いていく為の手段。それが何なのかを問い詰められたミネルバは、溜め息を吐きつつそれを白状した。
「一般的には、特殊能力って呼ばれている物よ。その方法が確立されたのは、ほんの二十年程前。たしか、研究者が言うには、『肉体、精神的修練を一定水準まで施した後に開花する、個の能力限界の突破地点』、だったかしら?私は親が反則気味だから必要無いのだけれど、ジェノスやユーリは修得済みね。誰でも開花させられるわけではないけれど、やってみる?ただし、相当厳しい訓練になるから、死んでも文句は言わないように」
口調は穏やかであったが、顔は至って真面目。今まで見た事の無い表情に、誰もが緊張感をあらわにしていた。そんな中、ユーリが更に驚くべき事実を打ち明ける。
「レイル君の場合、天然でそれを突破しています。ゲイル君とシャルロッテさん、この二人も多分、少々の鍛錬で可能となるでしょう。ミネルバの言う通り、命の危険もある方法を使用します。生半可な覚悟ならば、やめておく方が賢明です。引き返すというのなら、今の内ですよ?」
続けられた言葉にも、怯む者は一人もいない。もとより、危険は承知。その言葉が聞こえてくる程に、全員の瞳は前だけを見据えていた。
「畜生、ホントにあたいと同じかよ!成る程ね、同じ魔法でも、こんな使い方があるのか……」
目の前にいるのは、自身と全く同じ姿形をした、幻影の一種。繰り出す魔法や攻撃は、自身の持つ物と全く同じである。違うのは、その戦術。雷に変換した魔力を自身の手足へ流し、肉体を強化する。その運用効率は、純粋な魔力を使用する場合と比べ、数倍の持続時間を持つ。レイルが主に使用するのは後者であり、純粋な魔力ゆえに、大気中へ霧散する時間が短いという事を、彼は常に漏らしていた。
「とと、長期戦になったら、こっちがヤられるか。回復魔法なんて、あたいは覚えてないからな」
足元に飛来する、雷の槍。それを紙一重で回避しつつ、シャルロッテは考えていた。自身のコピーを倒す、その方法を。
「今頃驚いているわね、二人とも。敵は自分自身、とは使い古された言葉だけれど、今度は文字通りそれなんだもの。しかも、それは覚醒後の自分。自分が思い描く理想に、打ち勝てるかしら?」
シャルロッテとゲイルの肉体は、その場にあった。精神世界での戦闘は、肉体的に影響を及ぼす事は至極稀である。肉体をも取り込めば話は変わるが、そこで出来る事はせいぜいが、肉体や魔力の運用効率を最適化する事。誰も気付いてはいないが、学園都市の訓練場や試験場は、この方法を採用されている。古い技術ながら、未だ廃れていない点を見れば、その効果は一定以上の成果を上げている、という事であろう。最も精神世界とはいえ、現実との接合を強めていけば、そこでの疲労や負傷も現実の肉体へと継承され、何らかの影響が出る場合がある。場合によっては、死に至る事も……。




