第十六章
「レイル君、無理しすぎだよ……。起きますよね、絶対?」
「どうなるか、正直私には分からん。通常、強大な魔力を持つ者は、生まれと同時に、体に封印式を刻む。肉体の成長に合わせ、強度は弱めていくがな。しかし彼奴の場合、その封印の代わりとして、この魔剣を渡されたらしい。持ち主の魔力を吸い取る、この『アヴェンジャー』をな。それを手放したのだから、こうなるのも無理は無いだろう。それに気付かなかった私にも落ち度はある、今回ばかりは手助けしてやろう」
倒れたレイルを介抱したのは、レミー・クロークとミレ・クルーガーの二人。レイルが襲撃していた砦へ向かう途中、使える人材として確保したのがレミーと、ジュン・マクレスの二人だった。共にレイルの知り合いであった事は、単なる偶然であったが……。
「こいつの場合、学園にいた頃から無茶ばっかりやってたしな。自分の事より他人を優先する、おとぎ話の英雄みたいな奴だよ」
扉の外で見張りをしていたジュンが、不意に中へと入ってきた。ベッドの上に寝かされていたレイルを一瞥し、蔑むように言い放つ。その中には、憧憬の情も混ざってはいた。
「少し魔力を吸いだしてやれば、意識は戻るはずだ。人間の造った魔剣にしては上出来だが、所詮は紛い物だったようだな」
『ドラゴン・バスター』には、所有者の魔力を吸収する機能は無かった。剣に埋め込まれた魔石が内燃機関のように機能し、発動に必要とされる魔力を生み出す。複数使用による相乗効果で、通常のそれと比べて長持ちはするが、永遠ではない。いずれ形を失う、制限付きの力。オリジナルには到底及ばない、単なる複製品にすぎなかった。事実、今現在でもその剣は、無数のヒビ割れを生じさせていた……。
「発動させたとして、あと一、二回が限度か。方法としては二つ。一つは、魔力を封印する事。余剰魔力を全て封印すれば、肉体への負担は大きく減るであろう。最も、それをすれば、習得した殆どの魔法を捨てる事となるが」
二つ目は、魔力を敢えて全開放する事で、肉体への負担を減らすか、とミレは言った。かつての暴走と違い、自らの意思での開放であれば、意識が塗り潰される事は無い。しかしそれは、後々に代償を背負わされる。場合によっては、ヒトに戻れなくなる程の……。
「恐らくだが、潜在魔力量だけで見れば、我が父にも匹敵する。それだけの力を、この程度の矮躯で湛えるとは。仕方ない、今回ばかりは手助けしてやろう」
彼女の剣、『アヴェンジャー』を構え、レイルの手に握らせる。それと同時に彼の顔色は徐々に回復し、荒かった息も落ち着きを取り戻していく。魔力を吸収させる事で、体内の余剰魔力を表へと出した故の結果。しかしこれは、対症療法であり、その場しのぎに他ならない。いずれ、別の解決策が必要となるのは明白である。




