第十五章
「失礼します。王に謁見したいという者がおりましたので、お連れしました」
戦争の真っ只中、対処に喘ぐ城の中で、リーエは書類と様々な要請への応対に奔走していた。そこへ更に、謁見要請がかかる。現れた人物は、彼女も良く知る、自身の親。
「母……様……?何故、あなたがここに。自分の生命が果てるまで、静かに眠ると言っていたではありませんか!」
「私の孫、と名乗る男に唆されてな。大陸の戦乱を収める為に、力を貸せと、これを置いていった。娘ではなく、王としての貴様に問う。私の力が、必要か?」
リーエは一度俯き、弱々しくも頷いた。かつて、大陸を統べられたはずの存在。それと同時に、自身にとっては、数少ない肉親。巻き込みたくはない、しかし戦力が足りていない。それらの葛藤の末に導き出した、一つの結論。
「了解した。ならば、以降は指揮下に入ろう。私は、何処から行けばいい?」
「あなたには、ミエラゴエリアをお任せします。大陸一の激戦区ですが、必ず勝利を手に戻っていただけると、信じて。第五師団の指揮権を、あなたの手に委ねます。その力、我らの将に見せつけて下さい」
頷いたミレは、玉座を後にした。刃の死神と恐れられた、その力。水の精霊を支配下に置き、親和性の高い風の精霊をも屈服させた女性が、十数年の時を経て、戦場に舞い戻る。齎す物は、破滅へと誘う風と、あらゆる生命を封じ込める氷。魔族最高の切り札が、ここに今誕生する。
同じ頃、レイルは一人戦場にいた。ゲイルらに遠まわしに伝えた、同じ戦場へ立つ為の方法。それを実践するには、ミネルバらの協力が必要だった為。そこは奇しくも、ミレが向かっている戦場であった。
「『時の覇王よ、雷鳴となり走れ。百の迅雷、千の咆哮。未来を渡り、過去を統べろ。時空を制し、高らかに笑え』」
その時、全ての時間が静止した。レイルを除き、草木や大気さえ、その動きを止める。指定された空間の動きを制御する、ある種究極の魔法、《タイム・アルター》。縛る対象に例外は無く、場合によっては発動者本人さえ対象に含む、諸刃の剣。実戦での使用は初めてではあったが、今のレイルはあらゆる魔法行使、魔力コントロールを可能とする。出力が不安定となる理由であった、魔剣を手放したが故に。接近戦での性能を下げる代わり、魔術師として完成していくという、彼にとっては無慈悲な現実。ただ一人にとっての英雄であろうとした、彼が下した苦渋の決断であった。
「流石に、これは……。魔力の、消費が……激し、すぎる……」
彼の膝は折れ、地面に両手を付ける。時折漏れる吐息には赤いモノが混じり、体を蝕んでいった。肉体が抱えられる限界以上の力を持ち、そして、それを行使した事への代償。戦士としての完成度を高めると共に、その副作用は徐々に高まっていった……。
「くそが……。もってくれ、俺の体……。まだ、倒れるわけには、いかないんだよ……!」
あるだけの体力を振り絞り、彼はもう一度立ち上がる。それをあざ笑うかのように、下半身はその命令を無視し、折れていく。
「たわけが。それだけの力を持ちながら、制御する術を知らんのか。助けるのは今回だけだ、支えてやれ」
薄れつつある意識の中、ある声が聞こえた。駆け寄ってくる、見覚えのある姿。地面に倒れこむ寸前、誰かが俺の体を持ち上げる感触。あの背中は、誰だったか……。
今回の公募賞に間に合うか、正直不明……。
無理そうならタグは外しますが、遅くとも今作は9月中旬までに完結する予定です。
お付き合いいただけると幸いです。




