第十一章
「大成功、ですね。レイル・トルマン、ミネルバ・フォレスタ。この二人にさえ通用するのですから、戦力としては上出来でしょう?素体集めの方も急がなくては。襲撃にかこつけて拉致するのも、結構大変なんですがねー」
神眼、そう呼ばれるアイテムがある。遠方から、指定した場所を覗き見る為の道具。ある程度熟練した道具製作能力が無ければ作れない、高級品の一つ。今は亡き人物、グリン・マッコネンが最後に作った、最高品質のアイテムであった。
「お前の趣味も覗き見か?グリンといい貴様といい、私の仲間はそういう連れ合いばかりが集まる」
「ほら、魔族共の動きも見ておかないと、これからのプランが立てられないでしょう?必要悪、というやつです」
見ていた画面を閉じ、リエンは振り返った。まだたった二人の将軍格。だが、配下の兵もまた、同等の力を持つ。全員が、改造された肉体を持つ故に。
「改造は終わったのか?予定では、一年で蜂起に必要なだけの兵を集める、と言っていたが」
「ええ、学園から連れてきた兵士、そして捕らえた者全員、手術は終了しています。十数名、試験運転で彼らの元へ向かわせましたが、それでもストックは三万を超えています。民間人の素体でさえあれですから、効果は絶大のようですねー」
そう、レイルらが今戦っている者は全員、単なる村人だったモノ。人としての尊厳を奪われ、魂と肉体を操作されたが故の木偶人形―――。そして、その素体となったのは、ある人物の両親である。
「成る程、戦力としては上々だな。手始めに、この地方全ての城を陥落させる。その後、大陸各地の旧臣を呼び集め、国を落とす。ついてこられるな?」
「当然。楽しみですねー、魔族連中の慌てふためく顔が。ああ、早く戦争になってほしいものです」
立ち込めた暗雲は嵐を呼び、暴風を巻き起こす。凪いだ大陸に再び、戦火が灯る。その中で生き残るのは、果たして……。
「何だったんだ、あれ……。たった八人相手に、魔力空になったぞ……」
戦闘開始から、優に三時間。疲れ果てたレイルの前に横たわるのは、最早身動ぎさえしない、人間であったモノ。辛うじてそれらを退けた彼は、次の目的地へと歩を進める。目指すべき場所は、大陸の反対側。道の途中で遭遇する壁は全て踏み潰す、その意思を持って彼は歩き出す。それが棘の道であり、破滅へと続く事を知りながら……。
『貴公らの専横は許し難く、我々はその独善的支配を認めない。よってここに開戦を宣言し、貴公らの軍勢へ反旗を翻す。これを止めたければ、武力を以って応えるが良い。我らはそれに対するだけの力を蓄えている』
ルーカスにいるリーエ、その元へ届いた、一通の書簡。そこに記されていた宣戦布告に、彼女は即座に反応した。大陸各地の城への、武力衝突を警戒する知らせ。同時に、民間人への一時的避難要請―――。終結していたはずの戦乱はここに幕を開け、新たな暗黒の時代が到来する。飲まれれば死、例え生き延びたとしても、それは虚しいだけの勝利。滅んだはずの人間至上主義が、亡霊となって彼女らに襲い掛かろうとしていた……。