第三章
時は遡り、学園都市崩壊から数日後の、クーロンに程近い城。その名前はアークグランと呼ばれ、皇国軍の城では最も新しい物となる。その司令こそ、ユウの父親、ルーク・ドールマンである。学園都市を脱出したリュージュらは、ユウの提案により、この場所へ身を隠していた。追手を心配した為だが、彼女らを追う者は一人として存在しない。
「何とか一息つけたよね。クロハもすっかり治ったし、これもユウのおかげかな?」
「私は、何もしてないよ。お父さんがここのトップだから、色々と使わせてもらえてるんだし。お礼なら、お父さんに言って?」
リュージュとユウ、クロハの三人は別々に個室を与えられ、そこで休養を取っていた。ゲイルとテリー、ショウの三人は日々、守備兵達と共に訓練に明け暮れていたが……。
「レミーとジュン君は、逸れちゃったんだよね。そういえば、ここに来てから先生を見ないけど、どうしたの?」
「あれ、クロハは会ってないの?色々とドタバタしてるらしくて、今はお父さん達と相談してるみたい。多分、これからどうするかって話なんだろうけど……」
「申し訳ありませんでした。突然の上に、大人数で押しかけてしまって」
「いえいえ、珍しい物を見られたから、と兵達も喜んでいました。それに、娘に良い友達がいる事も分かりましたから、何よりです。公私混同だと、他の隊長格からは怒られましたがね?」
ミネルバらがこの城へ接近した時、偶然にもルークは外に出ていた所だった。一行の中に自分の娘がいる事を知り、保護する事を決めたのだが……。
「私達のような、素性の知れない者もいたのですから、立派な判断だと思います。治療や食料等も分けていただき、本当にありがとうございました」
クロハも回復し、ある程度ではあるが準備の整ったミネルバ達は、次の行動を決めていた。いなくなったレイルとシャルロッテ、ナギの三人を探す事。いつの間にか合流していたユーリも同行を決めており、戦力としてはほぼ整った状態となる。これだけの人員ならば、その辺りにいる盗賊や、中級までのモンスター程度には遅れを取らない、ミネルバはそう評価していた。
「では、これからも娘を宜しくお願いします。それと、もし彼―――レイル君に会ったら、これを」
懐から取り出した、一本の短剣。それは生前、ルークがノイエから譲り受けた物。
「彼は、娘を傷つけてしまった。その事実は、どう足掻こうと変わりません。でも、私は彼に感謝したい。あの子が私に反抗するなんて、今まで無かったんですから。親馬鹿と言われるかもしれませんが、純粋にその成長が嬉しいんですよ」
「では、お預かりします。担任の私が言う事ではありませんが、皆真っ直ぐ、良い方向へ成長してくれました。明日、私達はここを離れようと思います。重ね重ね、数日間とはいえお世話になりました。あの子達を代表して、もう一度お礼を言わせていただきます」
「にゃー!魔力ももたない、体力も限界にゃ!お父さん、ポーションちょうだい!」
「そんな物、とっくに使い切ったわ!もう少し耐えろ、援軍が来るって連絡が入った!」
群がるケモノに対するのは、たった二人の前衛。敵の数は優に百を超え、その全てが二人の元へと殺到する。均衡を保つ力は既に薄れ、何かあれば崩壊するという、細い綱渡り。
「『契約に従い、我に従え。氷の女王、闇夜の皇帝。咲き乱れるは氷の棘、咲き誇るは黒き庭園。共に在れ、永遠の牢獄』」
「『古の契約に従い、その身をここへ!我は高殿の王、汝はそれに従う者。来たれ、巨神の雷霆。百重の雷、千の軍勢!』」
『舞い踊れ、氷の息吹!全て捕らえ、薙ぎ払え!《クリスタル・ゲイン》!』
雷を纏う氷の蔓バラが、地面を這う。それは迫りよせるケモノを悉く捕らえ、燃え盛っていった。百種に及ぶ合成魔法の中でも、最大級の効果範囲と威力を誇る魔法。当然その難易度は高く、術者二名の呼吸、魔力量が噛み合っていなければ、それが発動する事は有り得ない。最も、それを力ずくで成し得てしまうのが、彼という存在なのだが……。
「ナギ、負傷者の救助と手当て―――って、ミーアか?!」
「やっぱり、レイルっちにゃ!お父さん、援軍来たにゃ!大丈夫、もう心配いらないにゃ」




