第四章
「ナギ、そこの猫にポーションを渡したら、少し下がれ!ミーア、回復したら後から来い。シャル、二人で一気に突破する!」
群れがひたすらに目指すのは、皇国軍の城と協力者の住む町。それを食い止め、殲滅する為に。二人の進撃が、ここに蘇る。
二本の剣がその体を切り裂き、舞い上がる炎が消し炭さえ残さず、消し飛ばしていく。たかが二人、しかし、その二人はこの場にいる誰よりも強く、揺るぎない信念を持つ。衝動に駆られるだけのケモノに、それを打ち破る力などがあるはずもなく……。
「ち、流石にキリがない!おいレイル、まだか?!」
「ふざけんな!この状況で大魔法なんて、詠唱出来るわけないだろ!」
シャルロッテと違い、レイルの周囲には何故か決まって、人型のモンスターのみが集っていく。剣戟が響き、幾重にも連なる攻防が続く。身体能力だけで言えば、モンスターの方が圧倒的に格上である。しかし、蹂躙される気配が無い。それどころか、数で圧倒的に勝るモンスター側に焦りの色が見える。
「くそ、何で竜人まで!『煌めけ光槍、全て貫き、全てを浄化せよ!《ホーリー・レイ》!』」
彼の持つ中でも、詠唱が短い魔法。しかし、その程度で怯む程度のケモノではない。ドラゴン程の巨体は持たないながら、膂力はそれらに匹敵する種族。そもそも、竜人はドラゴンらにとっては眷属にあたる。姿かたちは違えども、ドラゴンの亜種。それらが剣を手に取り、一人に向けて襲い来る。
「ごっめーん、遅くなったにゃ!」
暴力的なまでの魔力を携えた、一人の戦士が舞い戻る。竜人の体を軒並み吹き飛ばし、少女は地面へと降り立つ。その姿は、まさしく炎の雷。取り込んだ魔法は、《ライジング・インフェルノ》。レイルが好んで使用する古代魔法であり、ミーアにとっては最も魔力効率の良い魔法。攻撃力、速度共に《カース・フレイム》を吸収するより劣るが、持続時間や魔力消費を考慮すれば、大軍相手に向いていると言える。
「よし、来たか!ミーアはシャルと前衛、五分だけ稼いでくれ。時間が経ったら、それと同時に全力で後退。一気に殲滅してやるから、俺に任せろ」
レイルの全身から、昏いまでの魔力が迸る。彼が持つ、とっておきの切り札。未だかつて、誰も見た事の無い魔法が、ここに現れる為の下準備―――。
「うう、寒気がするにゃ……。遅れた分、一気に取り戻すよ!うー、にゃ!」
炎と化した体が、前線へと躍り出る。モンスターの肉体を砕き、鋼を断ち切る力。それから逃れたとしても、もう一人の戦士が立ちはだかる。魔剣にも匹敵する破壊力を持つ、大剣を携えた少女が。
「さて、俺も準備するか。『甦れ紅蓮の炎、立ち上れ迅雷。万象を灰塵と帰し、地を這い回れ。生命を育む大地よ、荒ぶる怒りを解放し、その身をここへ示せ。四天をここへ。其は汝が眷属』」
巨大な魔法陣が地面に浮かび、レイルを中心に回っていく。合成魔法とは違う、単独で行使する混合魔法。彼は、そう名付けていた。
「『星の怒り、晴らすは烈風。渇きを癒し、海原を駆けろ。滾れ、漆黒の灼炎、紅蓮の疾風。星屑の光を宿し、闇を貫け。咲き誇れ、氷の庭園。舞い上がれ、炎の息吹』」
耳を破る程に甲高い、魔力の集積音。高濃度の魔力塊がレイルの両手に集まり、一刻ごとに形を変えていく。数種類の魔法陣がレイルの周囲に張り巡らされ、その景色を書き換えていった。
「『吹き荒れろ、巨神の雷霆。全て焼き尽くし、高らかに嗤え!《アポカリプス・エッジ》!』
炎が吹き荒れ、地面からは氷が立ち上る。吹く風は滅びを与え、闇がその周囲を覆う。数種の古代魔法を合成した、レイル独自の魔法。魔力の大半を消費する代償として、その破壊威力・範囲は共に他の追随を許さない。万に届こうとしていたモンスターの群れはしかし、その一撃により姿を悉く消していった……。




