第38話 いざ禁止区域へ
翌朝――――準備を終えた俺は、髪を隠したマナリアとともに集合場所へ向かった。
俺たちが集合場所である東門前に着くと、すでにミハエルとその護衛、侍従が揃っていた。
パッと見では全員で二十人くらいいるかな?
でも、ほとんどが護衛みたいだ。
ミハエルが指示を出しており、馬車への積み荷などの最終確認をしている。
俺たちが近づいてきたのに気が付いたミハエルは作業を中断して俺たちに話しかけてきた。
「やあ、君たちが小間使いの仕事に応募してくれた二人だね。今回は応募してくれて嬉しいよ、禁止区域まで来てくれる人……特に平民は少ないからね」
まだ王都の住民や冒険者の目があるので、余所行きの設定で会話をする。
「私たちを採用してくれた担当の方には感謝してます。このような仕事、普通は参加できませんから……ねえ、リア?」
「はい、アンナさん。私はダンジョンに興味があって色々調べてるので、新しいダンジョンがあるかもしれないと聞いて思い切って応募したんです」
「そうだったんだね……おや? もう準備ができたみたいだ。君たちもこちらに来てくれ」
「はい、王子様」
「ああ、君たちは王都の下町で暮らしてるんだよね? 実は、民の暮らしについて聞く機会がないから気になっていたんだよね……道中、馬車の中で聞かせてくれないかな?」
事前に話してた通り、俺たちはミハエルの馬車に乗る流れになった。
ここでは一回断って、もう一度提案されてから承諾するんだったな。
「ええ!? そんな、恐れ多いです!」
「私たち平民が王子様と同じ馬車なんて……」
「そうです、ミハエル殿下。このような下賤の者を殿下の馬車に乗せるなど……
」
護衛の一人が苦言を呈する。
これは予定になかった流れだな……変に主張せずミハエルに任せよう。
「トリネアン……でも、こういう機会でもなければ『話を聞くために用意された平民』としか話せないじゃないか。僕は『生きた民の声』が聞きたいんだよ。この旅が終わるまでの間だけだから、納得してくれないか……?」
「そうまで仰るのであれば、我らはお止めしませんが……」
「ありがとう。さあ、君たちはこの馬車に乗ってくれ」
「ありがとうございます、王子様。それでは失礼して……」
俺とマナリアは、ミハエルに促されて馬車に乗る。
そして、そのまま禁止区域へと出発した。
「さて、これで内緒話も心置きなくできるね」
「殿下、よかったのですか? 護衛の人も渋々引き下がった様子でしたが」
「ああ、問題ないよ。彼の性格ならダンジョンに入る前に行う予定の『説得』で受け入れてくれるはずだから」
「説得……ということは『実力』を見せたら納得してくれる、というわけですね」
「そういうこと……それよりも、僕は君を問いたださなきゃいけないんだけど……わかってるよね?」
「は、ハイ……」
「まあ、僕も雰囲気を悪くしたいわけじゃないから……簡潔に済ませよう」
ミハエルはまず俺の『二年間の計画』について認めてくれた。
空間魔法を節約しつつ倒せる魔物しかいないダンジョンはいくつもある。
その中で最も安全を確保しつつレベル上げを行えるダンジョンについて、情報を正確に記していたのでミハエルもそこは感心してくれたのだ。
しかし、冒険者ギルドでの一件は看過できないと説教をされた。
一人でダンジョンに挑む人間が、想定の甘い行動をしていては皆が安心できない……とのことだ。
もっともである。
一応、今は最悪を想定して計画の修正を行い、冊子を作り直している途中だと伝えたので溜飲を下げてはくれたが……実際に冊子ができるまで何度も注意してきそうな予感がする……仕方のない事だが気が重い。
ともかく、計画を完璧に修正して今度こそ皆を納得させるつもりだ。
次に、その冒険者ギルドの一件で『邪教』の影があることを伝えた。
しかし、すでにミハエルは知っていたらしい。
冒険者ギルドにいた人の中に、懇意にしている商人がいたから詳しく聞けたのだとか。
どうやら商人の間でも邪教の噂は広まっていて、『殲滅の獅子』がいた共和国はかなりきな臭いことになってるとミハエルは教えてくれた。
俺がミハエルに教えた、ときクラで邪教が起こす事件の数々。
それを元に、ミハエルは独自の情報網を作っている最中なのだとか。
マナリアが聖女であることを、第一王子や第二王子などの他派閥に伝える段階で邪教についても伝えるらしいが……そんなに簡単に信じてもらえるだろうか?
ちょっと不安だ……
まあ、今は目の前のことに集中しよう。
その後は宵闇の古代都市について再確認を行った。
道中は人と会う可能性があるので、近くに絶対に人がいないと言える禁止区域のダンジョン入り口近くまでは、護衛の人にも真実は伝えない。
しかし冒険者ギルドの件もあり、ダンジョンで万が一トラブルが起きた時を考えると俺やマナリアの実力を伝えておいた方が作戦の立て直しを行いやすいだろう……という考えにより、マナリアのギフトが聖女であること以外は伝えることになった。
そして、マナリアが習得した補助魔法をミハエルに共有し、熟練度を上げるため、道中の馬車でミハエルからアドバイスをもらいつつ魔法の練習をして過ごした。
ついでにマナリアとミハエルがある程度仲良くなってほしいところだが……俺がいるせいでどうにも話の矛先が俺に向かってくる。
うーん……これは身分によって心理的ハードルが違うってことなのか……?
平民のマナリアと王子のミハエル。
その中間にいる下位貴族の俺。
二人とも、話しやすいのはどうしても俺になってしまうのだろう。
仕方ないので、うまい具合に二人のお互いの美点を伝えて印象を良くしようと画策したのだが……
「君は人の良い面を捉えるのが上手だね。僕も見習わないといけないと身が引き締まる思いだよ」
「アンナ様は、出会ったときから優しいですよね。きっと孤児院のみんなもアンナ様のこと慕ってくれると思うので、また一緒に行きませんか?」
こんな風に何故か俺の話になる……
そうじゃないだろ!
二人で和気藹々としてほしいんだよ!
そんなこんなで夜になり、王族用や護衛用、そして侍従用にそれぞれ宿泊用のテントを設営し、寝る準備ができた。
この時間に空間魔法と風魔法を用いてミハエルのテント……もはや仮設住宅のそれに侵入する。
ついでに空間魔法で声を漏らさないようにした。
誰に聞かれるかわからないからな。
「やあ、待っていたよ」
「殿下、急に呼び出しとは……いったいどういう用件ですか? 何かわたくしに不備がありましたか?」
「いや……冒険者ギルドの件も、邪教に対する相談も、『二年間の計画』も、今回の宵闇の古代都市の攻略についても、今のところ不備はないよ」
「? それでは、なぜ?」
「前に、君のいた世界と、この世界の話をしたのを覚えているかい?」
「ええ、覚えてますが」
「僕は君のいた世界の情報や技術が、この世界をより良くすると思うんだ。でも君とはしばらくまともに会えなくなる……だから話せる間に色々と話したいんだ、君さえよければ……だけれど」
「はあ……別に構いませんが。話がしたいなら昼でもよいのでは? 夜に話してるところを見られたら、かなり都合が悪くなると思います」
「都合が悪くなるのは百も承知さ。他の人がいたら、君は絶対に今以上に秘密を喋れなくなる。だから、こうして深夜になって監視が少なくなる夜に、君を呼んだのだから。夜は夜で危険だが、君の持つ情報にはそれだけの価値がある。だから……この旅の、この夜は、こうして二人で話さないか……? 駄目なら断ってくれて構わないから」
あぁ、そういえば最近は表の行事や裏工作なんかに奔走して、何かを楽しむ余裕がなかったんだろうな。
よしっ、ここは俺が一肌脱いで、徹底的に付き合ってやろうじゃないか!
「殿下、そんなに不安にならなくていいですよ。だって、わたくしが殿下と話すのを断るわけがないじゃないですか」
「本当かい!? あ……ええっと、そう言ってくれてすごく嬉しいよ。それじゃあ早速だけど、君の知ってる物語に出てくる話で、魔物とは違う伝説の獣『神獣』について聞きたいんだけど実はこの世界にはほとんど文献が見当たらなくて……」
ミハエルは楽しそうに、伝説や伝承について聞いてきた。
俺もこの世界にしかない情報を聞かせてもらって、楽しい時間が過ごせたと思う。
夢中になって考察をしているミハエルを見ていると、ゲームという名の『世界』の都合でマナリアと仲良くさせるよりも、彼と趣味や性格の合う誰かを探してあげるべきなんじゃないかと思えてきた。
俺は内心に少しのわだかまりを覚えながら、時間が来るまでミハエルと話し合った。
そんなこんなで四日かかって、ようやく宵闇の古代都市がある山脈のふもとへたどり着いた。
馬車で移動できるのはこのふもとまで。
ここからは徒歩で移動だ。
そして、ダンジョン付近まで近づいたら、護衛や侍従の人たちに俺とマナリアの実力を見せる段取りになっている。
ミハエルからは、全力は出さなくていいが皆を納得させるような魔法がいい、と提案があったので『俺の得意な三つの魔法』を披露する予定だ。
マナリアも、有用な補助魔法を的確に発動して皆さんに認めてもらうんだ、と張り切っていた。
マナリアと俺は、少し緊張しながらも山を登っていき……ついに山の中腹にあるダンジョン入り口が見えてきた。
ミハエルが声を上げて皆に伝える。
「皆のもの、あれが未発見ダンジョンの入り口だ」
「本当に有った……」
「『瘴気感知魔装具』から得たデータによりますと、この周囲から瘴気濃度が上がっています。ランクの高いダンジョンがある証拠ですね」
「瘴気が漏れ出るほどの難関ダンジョンってことだよな……気を引き締めねえと」
護衛の人たちが話し合う。
一部の人は瘴気測定用の魔装具で色々と計測している。
貴重なデータでもあるので、研究者気質の人も来ていたようだ。
それを確認した上で、ミハエルは
「それでは、ダンジョン入り口より少し前の広場で最終確認の会議をする。何か質問のある者はいるか!」
ミハエルの言葉に、一人の男が手を上げた。
「どうした、キャデラック。なにか気になることがあるのか?」
「はい…………本当に、その二人の子供を連れて行くのですか? 私は反対です」
これがミハエルの言ってた『説明』のためのイベントってやつか。
俺はちらりとミハエルを見る。
そこには困ったという顔のミハエルがいた。
えっ……まさか、この人仕込みじゃなくて…………本気で俺らをダンジョンに連れて行かないつもりなのか!?
これは説得力を増すために、ちょっと派手になるくらいの演出にすべきか……!?
俺は視線をミハエルに移す。
すると軽くうなずいてきた。
ヨシッ、ミハエルの許可はオッケー!
俺が習得した新しい魔法で度肝を抜かしてやろう!!




