第十七話 信長の政治
安土城・本丸。
信長は机の書状を指で弾いた。
乾いた音が響く。
長秀が横で控えている。
「……四国の件で、朝廷も寺社も、公家までもが動いております」
信長は書状を広げた。
朝廷の懸念、寺社の反発、公家の介入。そして──堺の沈黙。
長秀が息を呑む。
「将軍様の政治は、想像以上に……」
信長は笑った。
「面白い」
信長は書状を指で押さえた。
「将軍は朝廷を動かす。寺社も、公家も、商人も」
長秀が頷く。
「すべて……構造でございますな」
信長は目を細めた。
「軍では壊せぬ構造もまた、力だ」
長秀はその言葉に息を呑んだ。信長は続ける。
「将軍は国を使う。俺は軍を使う。戦場が違う」
信長は書状を置いた。
「ならば試す」
長秀が顔を上げる。
「……何を」
「構造だ」
長秀は理解が追いつかないという顔をした。
「信長様が……構造を……?」
信長は立ち上がる。
「将軍が使うなら、俺も使う」
信長は命じた。
「長秀」
「はっ」
「京へ文を出せ」
長秀が筆を取る。信長は言葉を続けた。
「四国討伐は──天下安寧のため」
長秀が驚く。
「……これは……朝廷、公家、寺社への……」
「政治だ。将軍の遊びだ」
信長は笑った。
長秀は筆を止めた。
「信長様が……政治を……?」
信長は窓の外を見た。
「軍だけでは足りぬ。構造もまた、力だ」
長秀は深く息を吸った。
「……では、これは……」
「実験だ」
長秀は筆を置いた。
「信長様……将軍様と同じ土俵に立たれるおつもりで……?」
信長は首を振る。
「違う。将軍の土俵に、足をかけるだけだ。どこまで動くか」
長秀は息を呑む。
信長は書状を束ね、机に置いた。
「構造を使えば、将軍はどう反応する。政治を使えば、国はどう揺れる。試す価値はある」
長秀は震える声で言った。
「信長様……これは……戦の前触れでは……」
「戦ではない」
「遊びだ」
信長は京の方角を見た。
「将軍。どこまで動く」
信長は笑った。




