第1話 幾星霜を経て
タカテラスがヒナタと出会ってから、二十二年という歳月が流れた。
その間、彼は村の水問題に対し必死に取り組んだ。
お陰でこの村では、雨が降らない年でも、掘った井戸や溜めた雨水を利用して穀物を育てることが出来るようになっていた。
また、私生活も順風満帆である。授かった三人の子どもたちはすくすくと育ち、今年二十歳を迎えた長男は、タカテラスがそうであったように村の娘と結婚した。
(ああ、もうそんなに時が経ったのか……)
タカテラスは村で行ったお祝いの会で、息子の晴れ姿と、妻になった村娘の着飾った姿に目を潤ませた。
これも、ヒナタが雨を恵んでくれる如雨露を、自分に与えてくれたからである。もし彼があのとき村の入り口で行き倒れになっておらず、タカテラスと出会うことが無ければ、この村は今とは違う未来を辿っていたことだろう。
少なくとも、穀物を育てる生活から離れなければならなくなり、土地を離れる者も出たはずだ。すると双方の間で意見の対立が起き、分かり合えず、言い争いも起こったかもしれない。
あの雨が降らなかった年に、村人たちが殺伐としていたときのように。
(ヒナタに会いたい)
タカテラスは心の中で呟いた。その思いは、年を経るごとに強くなっている。
ヒナタが不思議な如雨露を渡してくれたのは、「自分を看病してくれたからだ」と言っていた。しかしその理由だけでは足りないくらい、彼からもらった如雨露と、優しさのある言葉には助けられた。
(……会いに行こう)
タカテラスは、眩しい日の中にいる息子夫婦を眺めながら思った。
如雨露も返しに行こう。ヒナタに会いに。そして、お礼を言うために。
タカテラスはそう思うと、家族を説得し、「帰らぬ旅」に出ることを決意したのである。




