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黒王族の王様


 暗闇に包まれると、大勢の叫び声が聞こえて来た。耳を塞いでもその叫び声は聞こえて来て、頭の中に響き渡る。

 やがて視界晴れて来ると、目の前で大勢が剣と剣を交えて戦っている光景が見えるようになった。そこはどこかの平原なのだけど、辺りは血と肉でまみれて真っ赤に染まっている。

 叫び声は斬られた人があげている声のようだ。自分を斬った相手に対し、痛みと憎しみの声を与え、そして地面に倒れて死ぬ。しかしすぐに斬られたはずの傷が治ると、立ち上がって再び剣をとる。

 彼らの頭には、2本の角が生えている。直角に生えた、私と同じ黒王族の角だ。


 終わる事のない戦いを、彼らはここで繰り広げている。

 この光景は一体なんなのだろうか。


「──その昔黒王族同士の間でおきた、醜い争いだよ」


 私が頭の中で問うた疑問に対し、いつの間にか隣に立っていた人物が答えてくれた。


 真っ黒なストレートの髪。目は深い闇に染まり、不気味で生気を感じさせない。黒王族の特徴と言われる2つだけど、彼……あるいは彼女は、それを色濃く体現している。

 彼か彼女か分からないというのは、その見た目が中性的だからだ。胸はないような……いや、少しあるかも?でもただの服のシワかもしれない。声も低すぎず高すぎず、判断がつきにくい。


「……貴方は誰、ですか?」

「ボクはクシレン。かつて黒王族を統べ、今では災厄と呼ばれる存在になり下がった哀れな黒王族だ」


 ボク、という事は、男なのだろうか。

 いやそれよりも、災厄?この人が?かつて黒王族を統べたという事は、黒王族の王様か何かという事?疑問だらけの自己紹介に頭がついていけない。


「私は、シズ、です」


 とりあず自己紹介をしておいた。


「うん。よろしく、シズ。色々と聞きたい事はあるだろうけど、全部教えてあげるから安心してよ。とりあえず、今見てもらっているのはボクの遠い昔の記憶だ。黒王族同士がその昔、世界の覇権を巡って対立しておきた戦争だ。黒王族以外の者を殺すか、あるいは奴隷として扱うか、それとも融和して生活するか。大体三つほどの勢力に分かれて争ったんだよ。王の言う事も聞かずに、勝手にだ」


 その昔、黒王族同士が争ったという話は聞いた事がある。その戦いの光景が他の種族から見てあまりにも恐ろしいもので、今でも黒王族が恐れられる原因になったと言われているとか。

 その戦いが、コレという訳だ。


「君はどの勢力が勝ったと思う?」

「か、勝ち負けとか、あるんです、か……?」


 殺されても起き上がり、また殺し合うのでは勝敗が付く事はない。今目の前で見せられている光景は、そういう物だ。


「そう。ないんだよ。彼らは斬られても死なず、老いる事もなく戦いを続ける。オマケに戦いが続くにつれて生物としての理性が消え去り、ただ理由もなく目の前の敵を殺そうとするだけの、野獣となり果てている。もう、勝敗なんてどうでもいいんだ」


 クシレンは、そう言うと寂しそうに天を仰いだ。

 すると、戦場に変化が表れた。斬られた者が倒れて胸に剣を突き立てられると、動かなくなった。普通に血を流し、致命傷を負ったその体はもう再生する事はない。心なしか、死体となったその者の顔が驚いているように見える。

 他の場所でも、斬られた者が動かなくなっている。普通に死んで、もう復活する事はない。

 そんな変化の中でも黒王族達は止まらなかった。殺し合いを続け、動ける者はどんどん減っていき、最後の二人も互いを斬り合って二人とも死んで、誰一人としてその場で動ける者はいなくなってしまう。

 残ったのは、死体の山だ。


「黒王族は、不老不死の力を失った。戦いを続ける彼等に対し、黒王族の王は深く失望し彼らの存在を否定したのだ」


 そう言いながらクシレンが指さした場所に、クシレンがいた。

 死体の山の上で涙を流し、悔しそうに、また同時に憎しみのような感情を抱いた表情を浮かべ、立っている。


「全ての黒王族は、王と繋がっている。生まれた時から王を崇め、王を尊敬し、王のために生きる。それは種としての本能だ。王が黒王族に不死の力は不要だと判断すれば、全ての黒王族からその力が無くなる。いくら野生の本能が蘇り王の言葉が届かなくなった彼等にも、黒王族としての種から逃れられた訳ではない。王に見捨てられ、黒王族は不死の力を失う事になったんだよ」


 重い話なのに、クシレンはどこか吹っ切れたかのようにニコやかだ。

 むしろ、喜々としている気がする。


「で、でも私……不死、ですよね?」

「うん。今黒王族は不死の力を持っている。その前に君たちが災厄と呼ぶ存在について説明すると、先程も言った通り、ボクは災厄だ」

「み、見えません……」

「今は、ね。不死の力を失った黒王族は、突然の死を迎える事になった。その結果、恨みや怒りの感情を持った黒王族達の魂がボクを蝕み、黒王族の王たるボクの形を変えるまでに至ったんだ。黒王族の王は黒王族の民の魂に支配され、理性を失い、怒りのままに世界を破壊しつくす化け物になってしまった。意志を怨嗟の魂達に支配される事により、不死の力も復活してしまった。そんな事をしたって、一度失われた命は甦りやしないのに。こうして、黒王族の王は、愛し、守ろうし、しかし最期は彼らの怒りを買う選択をした結果、彼らの怨嗟の声を一心に受け、不死の災厄としてこの世界に終わりをもたらす存在となってしまったのでした。こうなってしまったのは、やはりボクと黒王族が繋がっていたからだろう。繋がっていなければ、こんな事にはならなかった。どう思う?」

「……かわいそうだな、と思います」

「うん。そうだね」


 せっかく同情の声をかけてあげたというのに、クシレンはテンションが下がったかのように寂し気に頷いた。


「君が災厄に斬られた時、聞こえた声があるだろう?アレは黒王族の恨みの声だよ。未だに戦いを忘れられず、囚われた魂の声が触れたり斬られた者の中に入り込み、かつての黒王族達のように相手が例え親しい者だろうと殺し合わされる」


 あの声……だからサリアさん達はあんな行動に出てしまったんだ。


「で、でも、それは竜族の咆哮でかき消す事ができるんじゃ……」

「災厄と触れる前なら、それでかき消す事が出来るだろうね。でも直接触れて、中に入り込んだ声をかき消すのは無理だよ。でも黒王族の中でも特別な角を持っている君は、その声に抗う事が出来た……」

「特別……?」


 その問いに、クシレンは答えてくれなかった。

 代わりとはいいがたい笑顔を見せ、そして話を続ける。


「君は今、ボクの身体に飲まれてボクの一部となっている。そのおかげで君と話す機会を作る事が出来た。この機会を利用して、君に災厄を倒すための方法を教えよう」

「っ!」


 私は先程の問いも忘れ、その申し出に激しく食いついた。


「しかしタダという訳にはいかないよ」

「な、なんでもしますっ。災厄を……貴方を倒す方法を教えてください!」

「本当に?なんでもでいいの?」


 そう言うと、クシレンが私の顎を片手で掴み取って来た。

 私とクシレンの身長差は、さほどない。掴まれた顎をクシレンの顔に引き寄せられ、クシレンの顔が眼前に迫る。

 クシレンは、睫毛が長くよく整った顔をしている。あちこちが不気味なくらい黒くて若干薄気味悪さを持ってはいるけど、美形だ。問題なのは、男か女なのかといったところか。


「い、いい。いいです。災厄を倒すための方法を教えてくれるのなら、私はなんでもします」


 例えクシレンが男だろうと、この身を捧げる覚悟で私は言った。


「そうか。それじゃあ目をつぶってくれ。そしてボクを受け入れるんだ」

「……」


 私は言われた通り、目を閉じる。これから何をされようと、抵抗をするつもりはない。


 そんな覚悟で目を閉じていると、オデコに何かが当たった。たぶんコレは、クシレンのオデコだ。目を閉じている事で敏感になっていたため、その感触に少し驚いたけど逃げはしない。

 次に、私の頭に生える角に、何かが当たった。そこから何かが私の角に入って来た気がした。何かは分からないけど、別に気分がどうにかなったりはしない。心地が良い訳でもない。特に変化はない。


「はい、終わり」

「え?」


 唐突に、クシレンが私から離れた。これから何かをされると思っていた私は、拍子抜けで間抜けな声を出してしまう。


「何かを期待してた?でもコレでボクが君にしてもらいたい事は終わった。君は今この時をもって、黒王族の王となったんだよ」

「えぇ……?」


 更に間抜けな声が出た。

 王?私が?黒王族の?訳が分からない。


「ボクが王を放棄して、君に王の力を渡したんだ。それによって君の意思次第で、黒王族から不死の力を奪う事が出来る。でも今はダメだよ。ボクから解放されて、ボクと戦う時にするといい。当然だけど、その場合君自身からも不死の力が無くなるから、死なないように気を付けるんだよ。いいね」


 急に、今からお前が王だと言われて混乱してしまう。

 王様というのは、私みたいのがなれるものではない。もっと威厳があって、自信満々で、皆の事を考えられる人がなるべきものだ。私はどれもあてはまらない。


「……どうやらもうこれ以上話している暇はなさそうだ」


 ふと気づくと、静まり返った平原で死体となった黒王族達の目が開き、こちらを見ていた。怒りに満ちた目でこちらを睨みつけており、今にも襲い掛かってきそうで怖い。

 千切千鬼に手をかけて襲撃に備えようとしたけど、不意にクシレンが私の肩を押して一歩後ろに下がらせた。

 下がったその先には地面がなくて、私は開いた穴に落ちていく事になる。


 そういえば、この世界に来た時も穴に落ちたな。


「じゃあね、王様。災厄を倒してくれる事を期待する」


 穴の上から見下ろしているクシレンが、私にそう声をかけた。

 直後にクシレンに黒王族達が襲い掛かり、飲み込まれてその姿が見えなくなる。


 私もやがて視界が閉ざされ、何も見えなくなってしまった。


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