「同志少尉、何か怪しげな車両が接近中です!」
モスクワまでの道中を守る、とあるトーチカが連絡を絶ちましたが、、、。
モスクワへの道の途中にあるとある特火点、一般的に言うとトーチカである。
コンクリートなんかで覆われ、対戦車砲やちょっとした銃砲とで守られた陣地である。
これは、指揮所とは電話でつながり、必要があれば火力支援、あるいは、機動防御で火消し役の機甲部隊が助けに来るまで粘る。
そこから近くの道路を監視しているソ連軍の軍曹は、なにやらゆっくり前進してきた車両を見た。
箱型の見慣れない車両だが所属は色でわかる。
「敵襲」
たちまちトーチカの中は戦闘配置である。
ラッチェバムとドイツ軍から嫌がられている76.2ミリ砲が、照準し、「なんだこりゃ」と砲手が絶句する。
明らかにこちらの砲より遥かにでかい主砲はこちらに指向されている。「撃て」と自身に叱咤しながら射つ。
しかし、必殺のはずの徹甲弾は見事に弾かれている!
この距離ならあのタイガーすら車体下部なら貫通できるはず!
しかも、ゆっくりと砲身は上がりこちらを狙い撃ってきた!
「よし、トーチカはぶっ飛んだ。このまま前進。」
撃破したトーチカを横目に、わが「マウス」は前進する。
三色の迷彩にさらに光の反射のような斑点のある迷彩である。マウスの量産、といっても資材が用意されてしまった分、15両はなんとか組上がってしまった。
とりあえずこの分だけで重戦車大隊を編成して、実戦テストに投入である。
軍隊も役所。
作ったものの明らかに役に立つか?と思いながらも、一応、評価して記録しなければならない。
しかし、砲塔、重いわ。遅いわ
普通のパンターが1両車体の上にあるんだから仕方ないのはわかるんだが。
正規の乗員も間に合わず、整備中隊から自分が来たりしている。
これは「予期されるトラブル」への保険みたいなもんである。
「車長、やはり筒温上昇気味です」
「そうだろうな、引き続きよく監視を頼む」
まさか本当に実戦に出るとは思わなかったからな。
本来、まだ実戦なんかむりなコンディションだ。
たぶん兵器局あたり、いや国防軍の上層部あたりでの責任問題でもあったかもしれん。
とは言え戦車の常識を越えてしまった車体を作り、生産までさせてしまった責任はきちんと問うべきだろう。
この「マウス」にかける費用があるなら、パンターをきちんと整備したり、はたまた既存の重戦車大隊の整備中隊の機材の充実をはかるのがよほど気が利いてる。
それとも未だに標準戦車の生産に移行できてないのを進めるとか、戦車用ディーゼルエンジンの量産に力を入れてもよい。
(あの豆戦車みたいなのが主力だった日本軍でさえ、全戦車はディーゼルエンジンだし、忌々しいTー34もそうなんだから)
運転しながら、ゆっくり前進していく。
支援してくれているパンターが小さく見えるなんて絶対おかしな話である。
明らかな敵がない限り、パンターが先導してくれることになっている。
パンターが走れない箇所には入り込まないことで不用意な事故を防ぐのである。
何せ、「マウス」の回収には、ベルゲパンターが数台いないと回収できないことが試験で立証されているのだ。
それでも過負荷なため、最近ではティーゲルB型をベースにする回収車を作るとかも検討しているらしい。
ただ、主砲と副砲の威力はさすがである。
砲身には今や無数のキルマークがかかれている。
ISー3みたいな厄介な敵も一撃なのは頼もしい限りである。
また、スターリン戦車の砲撃すら食い止める装甲はだてではない。
あの厄介な152ミリ砲弾も、見事に受け止めている。
しかし、低速と、軟弱な地盤に足をとられないか常に注意が必要なのだけは頂けない話ではある。
「マウス」なんか作るって本当にマニアックな軍隊だったんですなあ。




