スタフカの憂鬱
ソ連軍の最高司令部、スタフカに大変なニュースが入ってきた
ソ連軍最高司令部、スタフカにとんでもない情報が入ってきた。
あのアメリカのBー36が戦線からはるか後方と考えられていたチェリビヤンスク、ニジニタギル、スベルドルフスク、ゴーリキーなどの戦車をはじめとする装甲車両の工場群を空襲して大打撃を与えたのである。
これらの工場群はハリコフやスターリングラードなど戦場となった地域から疎開してきたものが多く、ソ連の戦車生産の心臓部と言えるものであるから、大きな損害であった。
「Tー34の生産はストップしています。車体の溶接するラインが完全に破壊されているため、復旧には1ヶ月要します。
試作中の車両も、オブィエクト137、先頃Tー54として制式化されたばかりの車両が破壊されていますから、Tー34/85の後継も配備がかなりおくれる見込みです。
なお、より大きな問題は、生産にあたる現場の技術者に多数の被害がでたことです。
先にあげたオブィエクト137以外にも、開発に大きな影響のある計画が多数あり、現在確認中です。」
以前、このような不吉な報告をしたものには、ろくな処分がなされなかったが、処分されたであろう政治委員すら爆撃に巻き込まれて行方不明の惨状である。
「では現在のモスクワ防衛戦には現在輸送中の戦車が供給されたら後がないということか?」
さすがのジューコフも頭を抱えた様子である。
「おっしゃる通りです、同志将軍」
「ならば、可能な限り、対戦車砲と、搭載可能な軽戦車車体を増産するなどの手を打って欲しい」
「となりますと、火力はともかく、防御力はなきに等しく、限られた機動性しかない対戦車自走砲しか提供できないですが?」
「やむをえん。ヤンキーどもの攻勢が迫っておる。今回の空襲はその一環のようだ」
「我々、空軍もそう考えている。前線近い基地が今回同時にBー29の攻撃を再度受けて大損害だからだ。」
本来ならば、空襲を阻止できなかった責任は、空軍に押し付けられるはずであったが、ウラル方面の工場群を守るべく配置されていた対空兵器や戦闘機が、スターリンの命令でモスクワ防衛に引き抜かれていたため、不問にされている。
「よく言われるが、こちらが苦しいときは敵も苦しい。なんとかやりくりしてモスクワを守ろう」
ジューコフの言葉で会議は散会した。
「それにしても、最高指導者がいないスタフカはしまらんな」 言葉には出さないまま退室するジューコフだが、最近のスターリンは特に米軍の空襲を恐れること、甚だしく出てこないことが多いのである。
「これで勝てるのか?」
口に出さないまま、スタフカを後にするジューコフであった。
史実ではドイツ軍にはここまで叩ける戦力がなかったのは、致命的なことだと思う次第。




