↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/11

第10話 初侵攻!②

 村人たちは水を汲んだバケツを手に、次々と火災現場へ運んでいた。


 しかし、炎はなかなか収まらなかった。


 むしろ建物の奥まで燃え広がった火が、窓の外へと噴き出していた。近づくことすら容易ではない状況だった。


「駄目だ! 水が足りない!」


「中にはまだ子供たちがいるんだぞ!」


 人々の声は次第に切迫していった。


『……どうすればいい?』


 燃え盛る建物を見つめた。


 炎は勢いを増すばかりだった。このままでは子供たちを助けるどころか、建物全体が崩れ落ちてしまうかもしれない。


『炎そのものを改造することはできないのか?』


 ふと、そんな考えが浮かんだ。


 俺は迷わず燃え盛る建物に手を伸ばした。


「熱っ、熱い!!」


 反射的に手を引っ込めた。


 当たり前だ。火に触れれば熱いに決まっている。


「いや、待てよ! 火には形がないじゃないか!」


 仮に改造できたとしても問題がある。炎は一か所に留まらず、絶えず動き続けている。どうにか改造に成功しても、すぐに散ってしまうだろう。


 それに、自分の体を直接改造することはまだできない。


 となると……


「ゴーラム!」


「は、はい?!」


「時間を稼ぎたい! 建物の入り口が崩れないよう、柱代わりになってくれ!」


「そ、それは……わ、分かりました……!」


 ゴーラムは慌てて建物の前に移動した。巨大な体を傾け、今にも崩れそうな入り口を両腕で支えた。


「ウルフォ!」


「グルル!」


「俺が合図したら中に入って、子供たちを連れ出せ!」


 ウルフォは低く唸りながら炎を見つめた。


「プニ! ウルフォと子供たちを守ってくれ。お前の体ならできるだろ?」


「お任せください!」


 プニは待ってましたとばかりにウルフォへ飛びついた。


 青く半透明な体がウルフォの背中や脇腹を包み込み、あっという間に全身を覆い尽くした。目と鼻だけがかろうじて見えていた。


「それからマッシュは……」


「はい!」


「そのまま大人しくしてろ」


「……」


「私もいますよ?! 私も!」


「ふぅ……」


 大きく息を吐いた。


 そして、近くに置かれていたバケツに手を突っ込む。冷たい水が手と腕を濡らした。


 これで足りるかは分からない。


 俺は左手を上げ、燃え盛る建物に向かって伸ばした。


『……よし』


 火は改造できない。


 なら、火が燃え移った側を変えればいい。


 建物の耐火性と強度を高める。


 燃え盛る炎の向こうへと手を伸ばした。


「……くっ!」


 触れた瞬間、肌が焼けるような痛みが襲ってきた。


『ああああ! 熱い! 熱いって!』


 歯を食いしばる。


 手を離したい。


 今すぐ後ろに下がりたい。


 だが、ここでやめるわけにはいかない。


『これだけ大きな建物だ。時間がかかるからな……!』


 炎が手の甲を舐める。腕を伝って迫る熱に、目の前がくらくらした。


 あああああ!!!


「気合いを入れろ!!!」


 改造を続けた。


 建物の耐火性を高め、柱や壁の強度を引き上げる。炎に包まれた木材が、少しでも長く持ちこたえられるように。


「はぁ……!」


 どれほど時間が経っただろう。


 腕に走っていた痛みが少しずつ鈍くなってきた頃、ようやく手を引っ込めた。


「これなら……少なくとも、崩れるまでの時間は稼げるはずだ」


 だが、まだ終わりではない。


 何より、今は一瞬が惜しい。


 入り口の炎だけでも一時的に取り除ければ、ウルフォが中に入る隙を作れるはずだ。


 俺は再び左手を伸ばした。


「はああああ!!!」


 指先に力を集中させる。


 炎が散り、再び燃え広がるまでのわずかな瞬間。その隙を逃さず、火の性質を改造する。


 すると、入り口を覆っていた炎が目に見えて弱まった。


「ウルフォ!!」


 俺が叫ぶよりも早く、プニに全身を包まれたウルフォが、すでに入り口へと駆け出していた。


「グルル!!」


「頼んだぞ……!」


 ウルフォの姿が炎の向こうへと消えた。


 しかし、間もなく入り口にも再び火が燃え移った。


「……」


 燃え盛る建物を見つめながら、拳を握りしめる。


『頼んだぞ……俺の部下たち!』


 建物の中から何かが壊れる音が聞こえた。


 ゴーラムは入り口を支える腕に力を込めた。プニの体がウルフォとともに、少しずつ建物の中へと押し込まれていくのが見えた。


 しばらくして。


「グルルル!」


 ウルフォの鳴き声が聞こえた。


「……!」


 黒煙の中で何かが動いた。


 青い粘液に包まれた小さな人影が、一人、また一人と姿を現した。その後ろからウルフォも出てきた。


「よかっ……」


 子供たちだった。


 プニの体に守られた子供たちは、無事に建物の外へと脱出していた。


「やったあああ!!!」


 思わず拳を握りしめた。


 すると、すぐさま左腕に凄まじい痛みが走った。


「あああああっ!!!」


「魔王様!!」


 プニは子供たちを下ろすと、すぐに俺のもとへ駆け寄ってきた。


 左手を見下ろすと、ひどい有様だった。皮膚は赤く腫れ上がり、指を動かすことすらままならない。


「魔王様、大丈夫ですか?!」


「あ、ああ……大丈夫だ……」


 全然大丈夫ではない。


 だが、部下たちの前で弱い姿を見せるわけにはいかなかった。


 俺は無理やり口角を上げた。


「俺は魔王だ……魔王というものは、欠損の一つくらいあった方が格好いいものだ……」


「それ、どういう意味ですか?!」


 その時だった。


≪ピロン! スキルレベルが上がりました≫

『改造』 Lv.9 → Lv.10


====================================

【固有スキル】

・『改造』 Lv.10


[新規項目解放!]

・使用者の身体改造

── 『改造』 Lv.10以上必要 [可能]

====================================


『……え?』


 目の前に浮かび上がったステータス画面を、呆然と見つめた。


 使用者の身体改造?


 まさか……


 恐る恐る左手を見下ろす。


 そして、指を動かしてみた。


 ぴくっ。


 動く。


「……お?」


 もう一度拳を握ってみたが、痛みはまったくなかった。


「おおおおお!!!」


 左手が元通りになっていた!


 焼けただれていた皮膚も、動かなかった指も、すべて元の状態に戻っていた。


「ま、魔王様……?」


「今の手……」


 周囲の部下たちが一斉に俺の左手を見つめた。


「元通りじゃないですか?!」


「……ふっ」


 俺は余裕たっぷりに笑った。


「当然だ。俺は魔王だからな」


 ……危なかった。


 本当に危ないところだった。


 その時、おばさんが子供たちのもとへ駆け寄ってきた。


「みんな!」


「お母さん!」


「無事だったのね……!」


 おばさんは3人の子供をまとめて抱きしめた。子供たちも母親の胸に顔を埋め、声を上げて泣き始めた。


 周囲から安堵のため息が漏れた。


 俺はその様子をしばらく眺めた後、ウルフォのもとへ歩み寄った。


「ウルフォ、お前は大丈夫か?」


「グルル!」


「……そうか」


 何を言っているのかは分からないが、無事らしい。


「プニ、ゴーラム。よくやった」


 俺は二人を順番に見つめた。


「主として誇らしいぞ」


「えへへ!」


「そ、その……僕はただ……」


 ゴーラムは照れくさそうに体を縮こまらせた。


 そして、一歩前に踏み出したその瞬間だった。


 ゴゴゴゴゴ!


「……ん?」


 背後から轟音が響いた。


 振り返ると、燃えていた建物がゆっくりと傾いていた。


「み……みんな逃げろ!!」


 誰かの叫び声が聞こえた。


 ──!!!


 建物が崩れ落ちる。


『……やべえ!』


 俺は反射的に頭を下げ、両腕で頭をかばった。


 ……。


 ………。


 降り注ぐ瓦礫と舞い上がる粉塵。


 しかし、不思議なことに何の衝撃も感じなかった。


「……?」


 ゆっくりと目を開ける。


 周囲には崩れた瓦礫が散乱していた。


 ところが、なぜか俺の頭上と足元だけは綺麗なままだった。


「……何だ?」


 その時、背後から小さな声が聞こえた。


「まったく……私もいるって言ったじゃないですか」


 振り返ると、手のひらほどの大きさの精霊が浮かんでいた。


『……あ』


 そういえば、こいつもいたな。


 まさか今のは、こいつの幸運のおかげなのか?


 ……いや、そんなはずはない。


「ははは! さすが魔王の俺だ! この程度で死ぬような人間ではない!」


 俺はわざと大きな声で笑った。


「魔王様!!」


「大丈夫だ! この程度、何でもない!」


 全然大丈夫ではなかったが。


 それにしても、建物が崩れてしまったな。


 周囲を見回す。幸い、怪我人はいないようだったが、建物は完全にめちゃくちゃになっていた。


 ……仕方ない。


「侵攻する前に、とりあえず修復くらいはしてやるか」


 俺は崩れた建物の瓦礫に手を伸ばした。


 壊れた柱や壁を一つずつ確認しながら、改造を使っていく。完全に新品同様に戻すことはできなかったが、崩れた構造物を組み直し、強度を補強する程度なら可能だった。


 ゴーラムも隣で大きな瓦礫を持ち上げてくれた。


 そうして長い時間をかけて作業した末、建物はどうにか元の形を取り戻した。


「……ふぅ。これなら、すぐに崩れることはないだろう」


 その時だった。


「あの……!」


 背後から人々が駆け寄ってくる足音が聞こえた。


「私たちを助けてくれたんだ!」


「子供たちも無事じゃないか!」


「建物まで直してしまうなんて……王都から来た魔法使い様なのか?」


「いや、俺は魔王……」


「きっと王都から派遣された魔法使い様だ!」


「お礼をしなくちゃ!」


「え?」


 ちょっと待て。


 ちょっとちょっとちょっと。


 どうしてそうなるんだ?


 俺は確かに魔王だと言ったはずだが?


 人々は俺の話を聞く気すらないようだった。いつの間にかプニやウルフォの周りにも人が集まり、ゴーラムやマッシュまで褒められていた。


「あのスライムも本当にすごかったですよ!」


「あの狼は子供たちを助けてくれたんですって!」


「あの岩の魔物も、崩れそうな建物を支えてくれていたんだ!」


「……」


 ……。


 気がつけば、俺たちは村の集会所にいた。


「わあ! 料理がいっぱいあります!」


 プニはテーブルに並んだ料理を見て目を輝かせた。


「これは肉料理ですね。興味深いです。調理法を覚えておけば、いずれ役に立つかと……」


「……」


 ウルフォはテーブルの下に寝そべり、尻尾を振りながら肉を食べさせてもらっていた。ゴーラムは椅子に座……ることはできなかったが、体を小さく縮こまらせていた。


 小さな精霊はテーブルの真ん中に乗り、料理を眺めていた。


「今日は本当にありがとうございました」


 村長と思われる腰の曲がった老人が、俺のもとへやってきた。


「小さな村ですので、大したお礼はできませんが、どうかお受け取りください」


「あ、はい……ありがとうございます」


 俺はぎこちなく頷いた。


 まあ、とりあえず出された料理は食べてもいいだろう。


「……うん」


 美味いな。


 別の料理も食べてみた。


 美味い。


 これも美味い。


 美味いんだけど。


『俺は侵攻しに来たんだぞ!!!』


 バン!


 テーブルを叩いた。


「ま、魔王様?!」


 プニが驚いて俺を見つめた。


 この世界は一体どれだけ呑気なんだ!


 魔王軍が村に現れたというのに、逃げるどころか料理を振る舞ってくるなんて!


 こんな場所で心臓が跳ねるわけがないだろうが!!!


 ……。


 結局、食事は最後まで美味しくいただいた。


「お風呂と寝床も用意してあります。どうぞごゆっくりお休みください」


「あ、はい……」


 俺は特に何も言い返せないまま、村人たちに案内された。


 ……。


「はぁ……」


 温かい湯に浸かると、全身の疲れが抜けていくようだった。


「あ~、体がほぐれるな」


「これが温泉というものですか。興味深いですね」


 マッシュが湯の中で頷いた。


 頷けるような頭はなかったが。


「そ、その……」


 ゴーラムは湯に入ってからも、体を小さく縮こまらせていた。巨大な岩のような体が湯に沈んでいるのは、どこか奇妙な光景だった。


 ……熱い湯にキノコと岩か。


「うむ。石焼き鍋だな」


「魔王様!」


「うおっ!」


 プニが突然、湯の中から飛び出してきた。


「お、おい! 何で入ってくるんだ! ここは男湯だぞ!」


「私はスライムですよ?」


「そういう問題じゃない! 出ていけ! 溶けるだろ!」


「溶けません!」


「どうして分かるんだよ!」


 プニは不満そうに頬を膨らませた。


 しばらく言い合った末、ようやく風呂から上がることができた。


 村人たちが用意してくれた部屋には、ふかふかのベッドと清潔な布団が置かれていた。


 俺はベッドに身を投げ出した。


 ふかふかだ。


 温かい。


 今日は本当に色々なことがあった。


 建物の火災もあったし、子供たちも助けた。スキルレベルも上がった。村人たちからもてなしまで受けたのだから……。


「……充実した一日だったな」


 ……。


 …………


「侵攻はどうなったんだよ!!!」


 俺は布団を蹴飛ばして飛び起きた。


 いや、確か今朝は村を襲撃すると宣言したはずなのに?


 どうしてこうなった?


「……まあ、いいか」


 俺は再び布団を引き寄せた。


 今日はもう遅い。


 明日考えよう。


 そうだ。


 明日こそ、本当に侵攻だ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。