第十六話:お試し
「はい、できました」
僕はそう言うと、みんなが閉じていた目を開ける。
4人とも頬は少し上気したような感じで汗もかいていた。
「うむ。レベルが上がったときの症状が続いたので若干暑いな」
カミラさんが手で顔を扇いでいる。
「ぽかぽかする」
イザベラも少し暑そうにしているけど体調は問題ないようだ。
ミアとナタリーさんも少し疲れたようにしているけど笑っている。
みんなのレベルを上げた結果はというと。
名前:イザベラ
レベル:200(0/2100)
職業:冒険者見習い
HP(体力)1407
MP(魔力)1608
STR(攻撃力)402
DEF(防御力)1005
INT(知能)1005
DEX(器用さ)1005
AGI(素早さ)1608
LUK(運)1005
ギフトスキル:防御結界(15)
獲得スキル:体力回復スキル、魔力回復スキル、収納(10)
獲得魔法:ファイア(2)、ウォータ(2)、ウィンド(2)、ロック(2)、クリーンアップ(5)、
アースクエイク(500)
名前:ミア
レベル:200(0/2100)
職業:錬金術師見習い
HP(体力)1005
MP(魔力)1608
STR(攻撃力)402
DEF(防御力)402
INT(知能)2010
DEX(器用さ)1608
AGI(素早さ)1407
LUK(運)1005
ギフトスキル:錬金術
獲得スキル:体力回復スキル、魔力回復スキル、収納(10)
獲得魔法:ファイア(2)、ウォータ(2)、ウィンド(2)、ロック(2)、クリーンアップ(5)、
カタラクト(500)
名前:カミラ・アッシュベリー
レベル:200(0/2100)
職業:錬金術師
HP(体力)1005
MP(魔力)1809
STR(攻撃力)201
DEF(防御力)201
INT(知能)2010
DEX(器用さ)1809
AGI(素早さ)1809
LUK(運)804
ギフトスキル:錬金術
獲得スキル:体力回復スキル、魔力回復スキル、収納(10)
獲得魔法:エクスプロージョン(500)
名前:ナタリー・マクマナス
レベル:200(0/2100)
職業:鑑定士
HP(体力)1206
MP(魔力)1608
STR(攻撃力)201
DEF(防御力)201
INT(知能)1608
DEX(器用さ)1809
AGI(素早さ)1809
LUK(運)1608
ギフトスキル:鑑定(10)
獲得スキル:体力回復スキル、魔力回復スキル、収納(10)
獲得魔法:テンペスト(500)
みんなもともと魔力は高かったので最上級魔法は3回は打てるようになったけど、素早さは思ったより上がらなかった。
ステータスポイントを振り分けた時に比べて、全体的に伸びるけど伸びしろはそれほどでもないと感じる。
僕はステータスポイントを振ることで数値が10000を超えているものもあるけど、みんなはレベル400になっても今のままでは10000を超えることはないだろう。
「一緒にパーティーを組むのなら僕がセーブするか能力値を上げるアイテムを着けるか」
またヘルの迷宮の周回をしなければいけないかもしれない。
「でもレベル200の実感ある?」
イザベラがそう言うとミラもカミラさんもナタリーさんも首を振る。
なかなか実感できるものでもないかもしれないけど、現状を知っておかないと要らぬトラブルのもとになるかもしれない。
「今の能力値を知るためにも次の休みに試した方がいいかもしれないです」
僕がそう言うと4人とも頷いてくれる。
次の休みに全員がお店に集まってもらうことを約束して今日はお開きとなった。
「あ、最上級魔法は3回は撃てますけど試すまでは絶対撃たないでくださいね」
「「「撃つかっ!」」」
朝のいつものルーティン(カミラさんの髪を梳く、ご飯を食べさせる等々)を終えて待っているとナタリーさん、イザベラ、ミアが続々と店に集まってくる。
ナタリーさんはいつも通りなのだけどイザベラはやけに上機嫌で、ミアは目の下に隈を作っている。
なにかあったのかな?
「えっへへー。私すごく強くなった!」
聞くとイザベラは胸を張って鼻息荒く宣言する。
「実は学園の模擬戦で誰も、先生方ですらイザベラさんの防御結界を破壊できなくて」
ナタリーさんに聞くと模擬戦でイザベラは常時防御結界を発動して様々な攻撃を受けていたらしい。
武器での攻撃に魔法攻撃、生徒や先生からの攻撃に常に曝されていても破壊されず、魔力切れもなかったようだ。
まぁ、魔力回復スキルで常に回復状態だし、最上級魔法などを複数回ぶっ放さなければそうそう魔力切れにもならないだろう。
「学園の中ではイザベラさんのことを絶対防御や難攻不落と二つ名で呼ぶこともあって」
ふーん。
イザベラ、中庭に行こう。
来い、ミョルニル。
イザベラがふふんと鼻を鳴らして防御結界を発動する。
僕がミョルニルを結界に叩きつけると粉々に結界が砕け散ったので絶対ではないな。
「あぅぅぅぅぅ」
涙目になっているイザベラは放っておこう。
天狗になるのはいけないことだからね。
「で、ミアはなんで病んでいるような目をしているの?」
隣にも同じような目をしている錬金術師がいるので察しはつくけど。
「魔力尽きない。たくさん、た~くさん実験できる。くふ、くふふふふふ」
あー、若干狂気入ってるな、これ。
「全然休まずに、夜な夜な実験室に籠っているので誰も近づけなくて」
付いた二つ名が狂気の錬金術師(見習い)。
僕が隣のカミラさんを横目で見るとカミラさんは明後日のほうを向く。
ミアほどではないけれど目の下にはうっすらと隈が見える。
「カミラさん」
僕が声をかけるとカミラさんは収納スキルを発動して液体の入った容器を取り出して僕に渡してくれる。
いまだ、くふ、くふと楽しそうに笑い続けるミアに近づいて栓を開け、嗅がせた。
「くふ、くふぅぅぅぅぅ、すぴー」
身体から力が抜けたミアを抱きとめると幸せそうな寝息が聞こえてきた。
「カミラ?それって眠りの?」
ナタリーさんが尋ねるとカミラさんが頷く。
「眠りに導くための薬だ。知識を、真理を求める者ほど無理をしやすい。ましてや体力回復、魔力回復が成されれば探求を容易にやめることなどできないだろう」
不眠不休で知識の探求を求める者に憐憫の情を示しているカミラさんを僕はジト目で見る。
なんのことはない、一日中実験に明け暮れていたのはミアだけではないのだ。
身体の疲れ、魔力は回復しても脳の疲れは寝なければ回復しない。
延々と実験を続けるカミラさんに狂気を感じた僕は眠りに導く薬は作れるか確認して作ってもらい、その場でカミラさんに嗅がせて強制的に眠らせた。
次の日に延々とお説教をしたので睡眠は摂ってくれているようだ。
「みんな、もう少し常識的になってもらえないかな」
「私たちをレベル200の常識はずれにしたレベル398の常識はずれな奴に言われたくないな」
僕の切実な願いはカミラさんにぶった切られた。
「ここなら大丈夫だと思うんですが」
僕たち5人は王都からかなり離れた山岳地帯に近い草原に立っていた。
ここなら王都からも、街道からも離れているので魔法を少しぐらい使っても問題ないと思う。
「でも馬車で2日くらいかかるのに昼前に着けたのには驚いたね」
ここまで走ってきたイザベラもナタリーさんも息は切らしていない。
「みんなレベルも上がっていますし、回復もされますからね」
そう言って僕は浮いている絨毯に乗ってぐっすり眠っているミアとカミラさんに目を向ける。
眠らせたミアを運ぶためにヘルの迷宮で宝箱から出た『魔法の絨毯』を取り出した。
ミアを乗せて浮かばせると、それを見たカミラさんが乗りたいと言い出したので丁度いいと『眠りの薬』を嗅がせて眠らせたのだ。
「カミラさんとミアの魔法は起きてから試すとして、試しに使ってみましょうか」
僕がそう言うとイザベラとナタリーさんが頷く。
心なしかワクワクしているような感じがする。
「こっちは人はいないから撃っても大丈夫ですよ」
どのくらいの範囲まで影響があるか分からないので、草原の向こうに続く森、森の奥に見える山岳地帯を鑑定して安全を確認した。
まさか遥か彼方の山までは届かないだろうけど安全のため。
「じゃあ、いくよ!」
イザベラが前に出て両手を前に向ける。
この世界では魔法の詠唱は威力を上げるためにイメージを補完する場合以外は必要ないみたいで、詠唱も人それぞれみたいだ。
いまは最上級呪文がどのようなもので、どの程度の効果を及ぼすのか分からないのでイメージを掴むためにもとりあえず発動させてみようということになった。
「アースクエイクッ!」
イザベラが魔法名を唱えると掌から魔力の流れが扇状に山に向けて進み空気を震わせた。
ガコッ、バキ、バキバキバキッ。
「ほえ?」
凄まじい音を立てて目の前の広範囲の大地が波打ち、ひび割れ、隆起した鋭い土の柱が隆起した。
大地の揺れが木々を薙ぎ倒し、鳥は追われるように飛び立ち、足場を崩されて潰され、または土の柱に貫かれたであろう獣の絶叫がところどころで聞こえてくる。
「テンペストッ!」
ナタリーさんが魔法名を唱えると放出された魔力の流れが竜巻を生み出した。
薙ぎ倒された木々を次々に巻き上げる巨大な竜巻、それが10数本目の前に見えるのは圧巻で、風の流れの音で何も聞こえなくなるくらいだ。
「な、なん、世界の終わり?」
「何が起こっている?」
近くを浮遊していた魔法の絨毯にしがみついているミアとカミラさんが目の前の大地と風の暴力を震えながら見ていた。
えっと、ミアとカミラさんも撃ってみて確認した方がいいだろう。
「エクスプロージョン!」
カミラさんの魔法は巨大な連鎖爆発によってアースクエイクで作られた土の柱も砕き、巨大なクレーターを山に届くまで作り、山にぶつかることでようやく止まった。
「カタラクト」
ミアの魔法は目の前に巨大な水の壁を出現させて扇状に全てを押し流す津波を発生させた。
4つの最上級魔法を使った目の前の光景は悲惨としか言いようがなく、森は消えて荒野が広がり、山の中腹まで地形が変わっていた。
「「「「・・・・・」」」」
環境破壊ともいうべき事象を起こした4人に言葉はない。
「街中では使えないし、周りに仲間がいれば使えない、使い勝手の悪い魔法?」
そう僕が呟くと4人が油の切れた機械のようなぎこちない動きで首を回して僕を見る。
「どこで使うの?こんな魔法」
「こんなのが3回も撃てるの?」
「人間兵器?」
「私もついに常識の尊さが分かってきた」
4人とも眉を寄せて苦悩の顔を浮かべる。
「「「「はぁぁぁぁぁ」」」」
深い、とても深い溜息が4人の口から漏れた。




