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異世界転移した元・社畜コンサルタント、魔王軍の財務を立て直す 〜暴力より帳簿が強い世界で、俺は数字だけで魔王軍を最強にする〜  作者: 久留トガ


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第15話 数字が示すもの

 砦に戻ったのは昼前だった。


 山道を下りながら、カイトは報告の構成を頭の中で組み直し続けた。数字は出ている。問題は見せ方だ。大きすぎる数字は、信じてもらえないか、逆に警戒される。根拠の順番が重要になる。


 ゴルが門の衛兵に一言告げると、すぐに謁見室への案内が来た。ルシフェラは待っていたらしい。


 謁見室には四天王が揃っていた。ガルガンが腕を組んでいる。シルヴィアの杖が、床につかないまま宙に止まっている。フォルカは羽を広げかけて、やめた。ヴェイルは壁際に立っていた。


「報告します」


 カイトは書類を取り出した。昨夜、山の岩に背を預けながら書いたものだ。数字の並びは整っている。


「北部山岳の魔石鉱脈を測定しました。4点、順番に説明します」


 書類を広げる。


「第1点。推定埋蔵量は、魔王領年間歳入の約300倍です」


 謁見室が静まった。


「第2点。確認純度は上層部で82%。これは市場に流通している魔石の平均値を大きく上回ります。品質面での優位があります」


「……300倍」


 ガルガンが繰り返した。呆けたような声だった。


「第3点。現状の採掘回収率は市場価値の15%以下です。組織的な採掘が行われておらず、個人による盗掘が断続的に行われている状態です。価値の大半が、手つかずのまま眠っています」


 シルヴィアの杖が、床に当たった。音ではなく、無意識の動作だった。


「第4点。3年以内の開発可能分だけで、聖王国アルベリアの現在のGDPを上回る経済規模になります」


 誰も話さなかった。


 ルシフェラが玉座で静かに動いた。


「……書類を」


「はい」


 カイトはゴルに目を向けた。ゴルが書類をルシフェラの元へ届ける。


 ルシフェラは書類を受け取り、数字を見た。指先が紙の上を動く。一行ずつ追っている。


 謁見室に沈黙が続いた。


「……これほどのものが、ここにあったのか」


 ルシフェラが静かに言った。独り言のような口調だった。


「はい」


「200年、誰も気づかなかった」


「気づいていた者はいたかもしれません。ただし規模を正確に測定できた者はいなかった。坑道の状態から見ると、少量ずつ横流ししていた者は複数いたようです」


「……横流し」


「盗掘です。個人が記録に残さない形で持ち出していた。魔王軍の公式な収入にはなっていません」


 ガルガンが口を開いた。


「なぜ人間側が攻め込んでこなかったのだ。これほどの価値があるなら」


「人間側はその価値を把握していません」


 カイトはガルガンの方を向いた。


「聖王国が交易路を封鎖したのは約300年前です。当時の封鎖の理由は鉱業利権と宗教的な動機でした。ただし当時の記録に、この鉱脈の規模を示す数字はありません。聖王国側は、魔石の存在は知っていても、これだけの埋蔵量があることは把握していない可能性が高い」


「……確かか」


「確証はありません。ただし、把握していれば行動が変わっているはずです。封鎖ではなく直接侵攻を選んでいた」


 ガルガンは腕を組み直した。


「これが優位になります」


 カイトは続けた。


「人間側が価値を知らない間に開発体制を整える。外部市場への供給ルートを確立する。ラーゴスを経由した流通を先に作ってしまえば、後から聖王国が気づいても簡単には崩せない構造になります」


「……先手を取るということか」


 フォルカが言った。


「そうです。これが3カ年計画の第2年度以降の核になります。当初の試算より規模が大きい。計画を修正する必要があります」


 ルシフェラが書類から目を上げた。


「修正の内容は」


「今週中に出します。今日のところは数字の報告までです」


「……わかった」


 ルシフェラは書類を膝の上に置いた。しばらく動かなかった。


「採掘体制は現在ない、ということだな」


「ありません。坑道は老朽化しています。盗掘の跡が複数あります。まず整理が必要です。管理体制を作り、盗掘を止め、採掘を組織化する。その後に外部市場との交渉に入ります」


「整理にどのくらいかかる」


「坑道の安全確認と管理体制の設計で約1ヶ月。その後に試掘を開始して、外部交渉の準備と並行させます」


 ルシフェラはしばらく考えた。


「進めろ」


「承知しました」


 カイトは一礼した。


 謁見室を出ると、ゴルが隣に並んだ。


「……長官、先ほどの数字は本当でありますか」


「本当だ」


「年間歳入の300倍というのは」


「スキルで測定した数値だ。誤差はあっても、桁は合っている」


 ゴルはしばらく黙った。砦の廊下を歩きながら、何かを飲み込もうとしている顔だ。


「……ゴルが生まれた頃から、この山はここにあったでありますが」


「そうだな」


「誰も知らなかった、ということでありますか」


「知らなかった。あるいは知っても使えなかった」


 ゴルは小さく息を吐いた。


「……では、長官が来る前と来た後では」


「数字が変わる」


 それだけ言って、カイトは執務室への廊下を歩き続けた。


 今週中に修正した計画を出す。その前に坑道の管理設計を始める。やることは増えた。しかし増えた分は、すべて上振れだ。


 足を速めた。


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