終章
エルシェシアが遺したものは、多くなかった。
机の上は整頓されていた。引き出しの書類は几帳面に並んでいた。個人的な荷物は少なかった。長く生きるつもりがなかったのか、あるいは——もとから、持たない人間だったのか。
それは誰にもわからない。
ただ一つだけ、奇妙なことがあった。
彼の机の奥に確かにあったはずの手紙が、翌朝には消えていた。誰が持っていったのか、誰も知らなかった。窓が少し開いていたと、片付けを担当した者は言った。
風が強い夜だったかもしれない。
あるいは——そうではなかったかもしれない。
いずれにせよ。
手紙は、消えた。
これがその手紙の写しである。
写しを作った者が誰なのかは、わからない。
いつ作られたのかも、わからない。
ただ——残っていた。
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親愛なる友へ
君が逝って、もう随分経つ。
君の笑顔を、まだ覚えている。
君の声を、まだ覚えている。
君が私に託した言葉も——
僕はずっと、君みたいになりたかった。
結局、なれなかったよ。
でも——君が僕を、友と呼んでくれたから。
僕は最後まで、歩けた気がする。
ありがとう。
エルシェシアより
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この手紙が、誰に宛てられたものか。
知っている者は、もういない。
『親愛なるエルシェシアへ』を最後まで見届けてくださり、ありがとうございます。
5人の人物の瞳を通して、描かれた彼は、皆様にはどのような人として映りましたでしょうか。
そして、彼はなぜ、あの夜、亡くなることになったのだと思われますか。
もし、何か心に触れるものがございましたら、ご感想や評価(☆)、リアクションをしていただけますと、大変嬉しいです。
改めて、この物語を最後まで読んでくださり、心より感謝申し上げます。




