第1章 「脱・社畜、異世界へ転生す」
工場に生きる男
午前5時30分。
まだ夜が明けきらない埼玉の工業地帯に、今日も同じ音が鳴り響く。
カン、カン、カン。
金属プレス機の音。汗と油と鉄の匂い。
「前田、もう一本頼むぞ!」
「了解です!」
28歳、前田巧。
高卒で大手部品メーカーに就職し、10年目のベテランオペレーターだ。
手取りは月30万ちょっと。
だが、彼の通帳には1000万円の数字が並んでいた。
「……やっとここまで来た」
実家のローンを肩代わりし、妹の学費も出し、それでも諦めなかった。
残業代もボーナスも、無駄にせず、ただひたすら自由を買うために貯めてきたのだ。
ある休日。
タクミは都心の小さな不動産投資セミナー会場にいた。
スーツ姿の講師が、スクリーンに映したグラフを指しながら言う。
「皆さん、“お金が働く”という感覚を持ったことはありますか?」
ざわめく受講者たちの中で、タクミは身を乗り出した。
「不動産投資には二つの利益があります。
一つは“インカムゲイン”家賃収入などの定期的な収入。
もう一つは“キャピタルゲイン”物件の値上がりによる売却益です。」
タクミのノートには、力強い筆圧で文字が刻まれていく。
インカム=安定。キャピタル=夢。
FIRE(経済的自由)には“安定+拡大”の両輪が必要。
講師は続けた。
「不動産投資の最大の魅力はレバレッジです。
銀行から借りたお金で、手持ち資金以上の不動産を買える。
つまり“他人の力”を使って資産を増やせるんです。」
「なるほど……俺の1000万円が、1億円の資産を動かす燃料になるのか。」
タクミの目が輝いた。
その瞬間、彼の心はもう“工場”ではなく、“自由”を見ていた。
翌日。夜勤。
機械の異常音が響く。
「ライン5、プレス止めろ!」
だが、油が床に飛び散り、滑った。
巨大な金型が落ちる。
金属の衝突音。
視界が暗転した。
「……あれ?」
気づけば、白い空間。
目の前に、金髪でスーツ姿の男が立っていた。
「前田タクミ、28歳。貯金1000万円。夢はFIRE、か」
「……誰だ、あんた?」
「あたしゃ神さまだよ。いや、金融庁の上にいる存在と思ってくれ」
「は?」
神は笑った。
「おぬしの努力は天から見ていた。家族を支え、自分を律し、節約し、投資を学んだ。
だが、工場で命を落としたのは……早すぎたな。」
「……そんな、俺、まだ……!」
「ならば、チャンスをやろう。」
神の指先が光を放ち、金色のカードが空中に浮かぶ。
【スキル授与:不動産査定スキル】
物件の資産価値、利回り、リスクを即座に見抜く力。
「このスキルを持って、異世界で生きろ。お前の知識を、そこで活かせ。」
「異世界……?」
「そうだ。不動産が存在し、人々が家を持ち、土地を奪い合う世界だ。お前が“投資家”として生きるには、むしろ理想の舞台だろう?」
巧は、拳を握った。
「俺が……異世界でFIREするってわけか。」
神は微笑む。
「その通り。お前が目指すのは。異世界不動産王だ。」
光が弾けた。
彼の意識は、新たな世界へと墜ちていった。
ワンポイント解説
■ 投資とは?
投資とは「お金に働かせて、将来の利益を得る行為」。
つまり、自分の時間や体ではなく、“資産”が代わりに稼いでくれる仕組みを作ることだ。
■ インカムゲインとキャピタルゲイン
インカムゲイン:家賃や配当のように、定期的に得られる収入。
キャピタルゲイン:物件や株式の値上がりによる売却益。
この2つをバランスよく得ることが、安定した資産形成の鍵となる。
■ レバレッジ効果
不動産投資では、銀行などから借りたお金を利用して、
自分の持ち金以上の価値の不動産を購入できる。
これにより、資産を加速度的に増やすことが可能になる。
■FIREとは?
英語の略で 「Financial Independence, Retire Early」 のこと。
日本語では 「経済的自立と早期リタイア」 を意味します。
「働かなくても生活できるだけの資産からの収入(不労所得)を作り、自分の時間を自由に生きる」
FIREを目指す人は、給与所得(労働収入)に頼らず、
投資・不動産・配当金などの“資産所得”で生活できる状態を目標にします。




