行動・第3段階
「エネルギー省だと! やはり話はそこまで行くわけか…」
いつものように狼男のバンの中で、先日の第三興商での調査結果をミチルは志茂田隊長と優雨丞に報告をした。
エネルギー省の名前が出ると、さすがの志茂田隊長も驚きを隠せず、優雨丞の顔を振り返った。
「ただ計画の出所が判明しただけで、実際にフェロちゃんに直接手を出した相手がまだ判っていないんです。エネルギー省から第三興商に話があって、今の発電プロジェクトが動いたのは間違いないんですが、フェロちゃんの固定化を誰が進めたのかがまだ判りません。そこで前にお願いしたとおりにフェロちゃん固定装置の出所を確認したいので、電源供給に妨害工作をお願いします。施設の確認は出来ているんですよね」
「そこは大丈夫だ、全部で4か所。時間があったので直接確認しておいた」
実地調査はは優雨丞が指揮をしていたのだろう、優雨丞から返答があった。
「今回は狼男だけで動いてもらえるんですよね」
「基本的にはそうするつもりだが、具体的にはどうして欲しい」
「その施設の中で交通事故とか、漏水とかの影響で故障させられるような設備は在りませんか? 単純に電線を切ってしまえば止まるとか」
「ああなるほど、そんな感じでいいのか。俺たちはすぐに壊すとか考えるからな。そういうことなら大した手間は掛からんから。今晩行けるか?」
「大丈夫ですよ。丁度いい施設があるから今晩にでもやらせましょう。やりたくてうずうずしている馬鹿が居ますから」
「なら任せるぞ。それじゃ、そんな感じで今晩実行しよう。報告は優雨丞からミチルさんの携帯の方に入れるんでいいな」
「そうしてください。すぐにフェロちゃんに確認して貰うようにしますから。関係者の誰かが動けば、何らかの動きが見える筈です。連絡経路が把握出来ればどこがどう関係しているのか見えてくると思いますし、メールでの連絡が行われれば内容まで把握できます。そうすれば次の行動が取れるようになると思いますから」
きっぱり言い切ったミチルの顔を志茂田隊長はまじまじと見直した。
「しかし、ミチルさんは今まで一体何の仕事をしていたんだ。全体の掌握とか行動計画の立案とか、行動時の肝の座り方とか、本当にただのプログラマーだとは思えないんだが」
「いえいえ、買い被り過ぎです。ただのプログラマーですって。追い詰められて仕方なくやっているだけですよ」
ミチルは慌てて、否定の意味で顔の前で両掌をプルプルと振ってみせた。今でも逃げられるものならば逃げ出したいところなのだ。
深夜2時過ぎ、行動は耶麻人と大地の2人で行うことになった。狼男化している2人の目には暗い夜道でも何ら問題なく周りの様子が確認できる。怪しげな音や人の声もすべて確認済みだった。
対象の設備は坂の下に位置し、壁に配電盤が設置されていた。そこに車を直接ぶつければ確実に電源は遮断される。
坂の上に止めておいた盗難車両が、きちんと止められていなかったために、滑り落ちて建物にぶつかってしまったという筋書である。
昼のうちに隣町から盗み出したトラックは、既に坂の上に移動させてあった。出来る限り衝撃を大きくするために、荷物は満載、燃料も満タンである。
エンジンを停止させたトラックの運転席に大地が座り、ハンドルを持って耶麻人からの合図を待っていた。
トラックを坂の上から滑り落としただけでは、確実に目標地点に到達する保証はない。人が乗って車の向きを調整する必要があるのだ。
大地は衝突の直前に外に飛び出す算段をしている。しかも飛び出した後、近くに着地したのでは地面に跡が残る可能性があるので、飛び出す先は塀を超えた先のビルの非常階段を予定していた。
普通の人間であれば一歩間違えば大けがをしかねないところだが、狼男にしてみればその程度の動きならば気にする程のことではない。
耶麻人は近くのビルの屋上で周りを警戒していた。誰にも見られない確実なタイミングで合図を出さなくてはいけない。
人の足音、声、呼吸音、すべてに注意を払い、半径100メートル以内に誰も動いている者がいないことを確信し、スマホのライトをオンにし掌で覆った。大地に向け掌の覆いを素早く3回外す。これで大地には3回フラッシュが光ったように見えたはずだ。
実行の合図である。
大地はサイドブレーキを緩め、トラックが下に下がっていくに任せる。ある程度スピードが乗ってきたところでサイドブレーキを軽く引いた。一度動き出したトラックに対し、サイドブレーキの意味は無いが、掛かっていたという工作をする必要があるのだ。
トラックのタイヤが唸りを上げ、加速しながら目標の建物に近づく。運転席の大地は目標から外れないようにハンドルを修正しながら歓声を上げる。
「ヒャッホーイ」
大地にしてみればジェットコースターにでも乗っている程度のスリルでしかない。
目標の建物は目の前。
大地はドアの隙間から身体を出すと素早く荷台に移り、最後の瞬間を見届けてから隣のビルに向けて飛び出した。
ブロック塀の破壊される音に、トラックの運転席がつぶれる金属音とガラスが砕ける音が合わさり、ドンという音と共に地面が揺れた。トラックの荷台に乗せてあった金属の崩れる音と共にメリメリと建物の壁が破壊される、と、炎が噴き出した。燃料に引火したのだ。
大地は耶麻人と隣のビルの屋上で合流するとニヤリと笑みを浮かべて親指を上げた。
ここから引き上げる際に目撃者がいると厄介になる。
「人の動きは大丈夫っすか?」
「今のところ大丈夫だ。しかし、ちょっとやりすぎじゃないか…」
「確かに思ったより行っちまいましたねぇ」
ここから別のビルに飛び移って急いで戻りたいところではあるが、そこは慎重にいかなくてはならない。
2人が裏通りに降りる頃になって遠くからサイレンの音が聞こえてきた。人が叫ぶ声も聞こえてくる。
狼男は緊急時用に様々な裏ルートを確保してある。街中の監視カメラも避けなければならない。2人はそういったルートの一つになっている雑居ビルの地下に入り、電源室の奥のドアを開けた。先には奥まで続く暗い通路がある。
そうやって、いくつかの人目に付かないルートをたどる。
目的地は狼男と繋がりのある駐車場だった。一般の時間貸しの駐車場にはカメラが設置してある場合が多いので使えないのだ。
既にかなりの距離を移動している。ここで乗り込むところを見られたところで、事件との関連性を疑われることは無い筈だが、気を緩めてはならないところだ。
耶麻人が最後まで狼男化のまま周りの様子を窺って、安全を確認。大地に合図を出し、大地が途中で耶麻人を拾って現場を後にした。
「あれじゃ、ちょっとした事故じゃ済まないですね」
「かなり派手にやってくれたようだな」
陸駆が遠くのビルの屋上から双眼鏡で現場の状況を確認して、優雨丞にスマホで報告をする。
「明日のニュースが怖いな」
「そもそもあそこの設備、表向きは何になってたんですか?」
「使われていないただの倉庫ってことになっていたようだ」
「持ち主は?」
「それがはっきりしないところがなんとも言えない…」
狼男が行動を起こしている頃、未千流はハナハナの自分の作業場でフェロちゃんと今後の確認をしていた。
第三興商が『FLFプロジェクト』にどのような関わり方をしているかも判ったし、インターフェースの所在も判明した。
回路図も吉宗電気に置いてあるだけのようなので、後ほど回収すればよい。
今晩狼男がフェロッソフを固定するための電源設備に妨害を加えることになっているので、その後情報がどのように動くかを確認することで、『FLFプロジェクト』の大本を探ろうというのだ。
>間もなく狼男が何かする筈だから、結果を確認してね。
>>電力が不安定になるとボクの固定化が緩むはずだから、うまく行けば実体化部分に直接介入できるかもしれないよ。
>そんなこともあるんだ。
>>まだ解らないよ。可能性の話だから。
ヨシダビルの奥で警報が鳴っていた。
「何が起きている」
「フェロッソフが異常反応を示しているようです」
フェロッソフの監視カメラには、フェロッソフの色が異常な変化を示している様が映し出されていた。元々が赤や紫を基調としていたのだが、そこに緑色の光が混ざり、部分的にどす黒い部分が発生していた。そしてその暗い部分から大量のフェロドゥワームを吐き出している。
「不味いですね」
「うむ、今回電源部に手を出した影響かもしれん」
「あれだけ大量のフェロドゥワームでは俺たちの手には負えるのかどうか」
「上も慌てているらしいです、報告を要求しています」
「優雨丞はミチルさんに連絡を入れてみてくれ」
「解りました。今連絡してみます」
優雨丞はスマホを取り出すとミチルに電話を掛け、しばらく話をした後で顔を上げた。
「不味いですね、ミチルさんに連絡を取ってみたんですが、フェロちゃんと話が出来なくなっていると言っています」




