表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サキュバスは狼男の夢を見ない  作者: 無沙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/74

覚醒4

 とてもよく寝た。そう思って未千流みちるは気持ちよく伸びをした。今何時なんだろう。時計を見ると10時…


「えええっ」と思わず声を上げて飛び起きた。??……ここはどこだ? ………ハナハナの寝室ではない。


 ……自分の部屋だ。


 未千流はガバッと勢いよく起き上がって寝室を出た。リビングはがらんとしている。仕事道具も無い。


 間違いない。自分の部屋に戻ってきている。ふと自分の服装に気が付くとボロボロに千切れた布が身体に張り付いた状態。これはヤバい。何があった?


 兎に角寒い、エアコンの電源を入れ、バスルームに移動し、湯を張る。

 キッチンのポットに水を入れてスイッチを入れる。お腹は…、それ程減っていない。


 冷蔵庫を開けてみると殆ど空。

 そう言えば紅音と来た時に整理したんだったっけ。


 冷蔵庫の電源は抜いてあるので一応コンセントだけ差し込んでおく。ブルっと軽く震えてコンプレッサーの動き出す音がする。


 台所からピーっという音がして、ポットにお湯が沸いたことを伝えてくれる。

 カップを出して、インスタントコーヒーの粉を入れてお湯を注ぐ。コーヒーの香りで気持ちが落ち着く。取り敢えず何が起きているのか考えよう。


 荷物を持ってきた気配はない。これではハナハナに連絡を入れようにもスマホが無い。財布も無い。家の中には電話を引いていないので公衆電話? 今時あるのか? でも探して連絡を入れる必要はあるだろう。


 ドレッサーの引き出しを確認して、もしものためにと入れておいた1万円札を確認する。この後何か買う必要が出てきてもこれで大丈夫だ。


 問題は夕べ何があったかだ。

 昨日は吉本よしもとさんと待ち合わせをして第三興商だいさんこうしょうまで打ち合わせに出掛けた。アナが付き添ってくれて、そうだ! 具合が悪くなってアナに抱えられて外に飛び出したんだった…


 アナが山中やまなか部長と吉本さんを襲った光景が脳裏によみがえって、冷や汗が出て来た。

 あの後本当に大丈夫だったんだろうか…。次に会う時が怖い。


 しかし外に連れ出された後の記憶が曖昧だった。暗い公園のベンチに座らされたような…


 急にピンク色の唇の映像がフラッシュバックし嫌な記憶が、あれはアナの時の…


 未千流は頭を振って唇の映像を追い出した。

 何だってあんな物を急に思い出したんだろう?


 紅音はグイっと残っていたインスタントコーヒーを飲み干した。

 バスルームから風呂の準備が出来たという合成音声が聞こえてくる。取り敢えずはお風呂に入って落ち着こう。




 未千流は湯船に浸かってこれからの事を考える。

 夕べの事はこれから思い出すとしても、コンビニへでも行って少し食べ物を調達しよう。そこに電話があればハナハナに電話、って電話番号判らない。アナの番号も、紅音の番号もみんなスマホの中だ。


 バシャッと掌にお湯をすくって顔に掛ける。

 八方塞がりだった。大体どうやって家に戻って来たんだろう。肝心のそこの記憶が全く無かった。


 ザバッと湯を溢しながら勢いよく立ち上がった。嫌な予感がする。

 未千流はバスタオルを引っ掴んで身体をざっと拭いて、脱衣場の鏡の前に立った。

 サキュバス光は出ていない。何時もなら気を緩めれば出てしまう筈が、全く出ない。それなのに逆にフェロモンの出し方を知っている自分がいる。


 フェロモンを出してみる。


 身体の中にエネルギーの様なものの流れを感じる。と、目の中に赤い光が灯る。そして髪の毛の色が抜けフワッと広がった。鏡の中に居るのは真っ赤に輝く目と、小麦色に輝く髪を持った未千流だった。

 自分の姿にめまいを覚える未千流だったが、まだ身体の中に残っているものを感じる。何かが出て来るのを抑えることが出来ない。

 背中に衝撃を感じて前屈みになった未千流の背中から白く輝く何かが出て来た。明らかに白い翼だった。

 何これ! 信じられない!


 未千流は床に座り込んで、バクバクと喘ぐ自分の心臓の動悸を抑えようと深く息を吸い込んだ。

 サキュバスになった? でも何か変だ。サキュバスは黒いコウモリの翼を持っていて、目には緑色のサキュバス光が光っているもの。

 それなら私のは何なんだ?


 未千流は大きく息を吐き、立ち上がって自分の姿を確認した。

 鏡の中の姿は先ほど確認した通り。サキュバスとの違いは赤い目と白い翼。美しいとも思えるがこれが自分だとは認め難い。


 身体中を触ってみた感じは普段と変わりはない。翼に触れると抵抗を感じるが、そのままグッと力を入れると手が突き抜ける。そう言えば紅音がサキュバスの翼に実体は無いと言っていたが、こういうものなのだろうか。

 その翼を自分の意思で自由に動かすことが出来るのが不思議な感覚。

 左手に力を篭めると何やら白い杖のようなものを出し入れ出来、そこに力を流し込めるのことを何故か知っている。尻尾は無いが、多分これがそれに代わるものだ。


 未千流は一しきり自分の姿を確認するとフェロモンの流れを止め、()()()()()()を解いた。


 誰も居るはずは無いのだが、何故か緊張してバスルームの外を覗く。バスタオルを抱えて前から自分の裸が見えないようにして寝室まで移動する。


 寝室に入るとバスタオルをベッドの上に置いた。クローゼットの鏡の前に立ち、何も身に着けていない自分の身体を確認する。

 どこから見てもいつもの自分だった。


 ちょっと息を吸って、覚悟を決める。

 フェロモンを出し、その流れに身体を任せて鏡の中の自分の()()()()()()をアニメーションでも見ているかのように確認する。


 目の中の赤い光が強くなっていき、髪の毛の色が薄く小麦色に変化しながら伸びていく、そして背中に巨大な白い翼が現れる。

 翼を軽く羽ばたくように動かしてみる。部屋の中なのでそれ以上の事はしないが、この翼で空を飛ぶことが出来る確信が持てるのが不思議だ。


 未千流はため息をついて、()()()()()()を解いた。

 鏡の中の未千流は何時ものミチルに戻っていた。

 未千流はクローゼットの中から着替えを取り出して身支度を整える。


 これでどうやって帰って来たかの答えは出た。アナに連れられて外に出た後、どういうわけか完全に今の白い翼のサキュバスに成ったのだろう。それで空を飛んで帰ってきた。


 それでもその間の記憶が無いのは気になる。そもそも家に入る間に誰かに見咎められらなかったのだろうか。


 それにしても完全にフェロモンをコントロール出来ている事は確認済み。今までのように外でフェロモン漏れを心配する必要は無い。取り敢えず食料を買い出しに行こう。




 お腹は空いていないが、食べたほうがいいのだろうとコンビニで軽いお弁当とおやつを買った。

 コンビニの外に公衆電話があるが、掛ける先が判らない。そう言えば番号案内っていうのが有ったような気もするけどその番号が判らない。

 記憶にあるのは実家の番号位か…、 実家に掛けてハナハナの番号を調べてもらう。そもそも家族にハナハナの情報を伝えたくない。

 交番で、無理無理!


 あ、自分の携帯番号なら。

 スマホは打ち合わせに出る際に鞄に入れていたはず。アナが気が付いて持って帰ってくれているといいのだが…。 取り敢えず掛けてみよう。


 未千流は公衆電話に硬貨を入れ、自分の携帯番号をプッシュした。

「出て、誰か出て…」そう思ったが空しく留守番のアナウンスに切り替わり、公衆電話から硬貨が落ちる音がする。

「未千流です。公衆電話からです。もう一度かけるので出てください」

 ダメもとで留守電に一言入れて切った。


 30秒くらい待ってもう一度……、 出た!

「未千流です」

「あんた今どこに居るんだい!」

 うわっ! 妖子ようこさんの怒鳴り声が聞こえたので思わず受話器を耳から遠ざけた。


「自分の家に来てます。連絡方法が無くって。どうしようかと」

「わかったよ、家に居るんだね。直ぐに紅音あかねを迎えに行かせるから動くんじゃないよ」

「…解りました。それじゃ家でじっとしてるのでお願いします」

「…変わりは無いんだね。何か問題はないんだろうね?」

「大丈夫です。大人しくしてますから。紅音さんによろしく伝えてください」


 未千流は受話器を置くと公衆電話に手を置き、前屈みになって肺の中の空気を吐き出した。

 何とかなった…、みたいだ。




 未千流は家に戻ってコンビニで買ってきた食べ物をダイニングテーブルに置いた。

 今度こそ、ちゃんとしたコーヒーだ。


 食器棚から買い置きのコーヒー豆を取り出すと封を切り、コーヒーメーカーにセットする。今回はマグカップでたくさん飲めるように用意しよう。

 何時ものコポコポと言うコーヒーメーカーの動作音と、立ち上がる香りに癒される。


 電子レンジにお弁当をセットして、温まるのを待つ間に、淹れたてのコーヒーを取りに行く。

 テーブルに着く前に歩きながら、お気に入りの猫の絵のマグカップに入れたコーヒーを一口啜る。


 紅音さんが迎えに来てくれるんだし、もう何も問題ない… 訳が無い!

 そうだった、何も解決したわけじゃなかったんだ。わたし、結局人間に戻れなかったみたいだし…。



 コンビニのお弁当を食べているとき未千流は気が付いてしまった。

 あれ? もうフェロモンの心配しなくていいんだったよね。って事は電車に乗ってハナハナに行けたんじゃない……。


 紅音さん、ごめんなさい。迎え要らなかったんだ…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ