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サキュバスは狼男の夢を見ない  作者: 無沙


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新たな驚異

 耶麻人やまと優雨丞ゆうすけ大地たいちという3人の狼男が陽明町ようめいちょうの神社の前に立っていた。3人とも同じ灰緑色のツナギの作業服を着用し、手に手に工具を持っている姿は、傍から見ればいかにも作業中という雰囲気に見えた。ただし、そのガタイが良すぎるという点を無視すればという事にはなる。


 今回派遣されたチームでは耶麻人が最年長であり、チーフとしてまとめている。その耶麻人の体格は優雨丞と同等だが、感情表現の激しい狼男の中では珍しく寡黙な存在になっていた。

 因みに大地は狼男の中では小柄な方だ。


「ここか?」

 優雨丞の後ろから着いてきた耶麻人が倉庫の扉を見て確認する。


「ああそうだ」

 そう言うと、優雨丞は目の前のドアを引き開けて中に入る。最後に入って来た耶麻人がドアを閉めると外からの明かりは殆どなく薄暗いため、全員が装着しているヘッドライトのスイッチを入れた。


 優雨丞は耶麻人がドアを閉めたことを確認すると、奥に進み、足元の鉄の扉をライトで照らし出した。


「入り口はそれなのか」

「ああこれだ」

 優雨丞が扉を引き開けると、その先にはまっ直ぐ下に続く階段が延びていた。


「先に行け」

 耶麻人は2人に指示を出して先に行かせると、そっと頭上の扉を下ろした。


「深いな」

「深いですよ。トンネルまでまっ直ぐですから」


 この階段がアナと未千流みちるが下まで潜った階段なのだが、大柄な狼男にはかなり窮屈に感じられた。特に優雨丞にしてみればここに来たのは小学生の時。身長が全く違うのであの時の印象とは全く違っている。


「これって途中何も無しですか?」

「ああ、何も無しだ」

「ひゃぁ、気持ち悪いっすね」

 先を行く大地が妙な声を出した。

 アナと未千流がここをスマホのライトだけを頼りに降りた事を考えると、優雨丞は何とも言えない気持ちになった。


 3人はやがて最深部までたどり着き、そこにある金属製の扉を押し開けた。下の部屋は3人のヘッドライトに照らされ、その荒廃した全体像を見せていた。


「確かに鍵は付いてないようだな」

 今しがた入って来た扉を、耶麻人がライトで照らして確認する。


 大地が工具箱を開け、小型の溶接機と金属製のかんぬきを取り出した。扉に閂を取り付けて外から入れなくしようというのだ。


 全員が溶接用メガネを着用。優雨丞が閂の位置を決め、大地が溶接の作業を始めると、部屋の中は溶接の閃光で真っ白になった。

 程なく作業が完了すると、閂の状態を確認する。これで外から侵入者が入ってくる危険性は無くなったことになる。


「完了です、こうしてみるとあっけないですね」

「ああ、そうだな。それじゃ戻ろうか」


 先頭を歩いていた優雨丞が反対側の扉を開けると、そこは地下鉄跡のトンネルになっていた。トンネルの中には例のパイプが無秩序に張り巡らされているが、彼らにとっては見慣れた光景でしかない。


 3人がヘッドライトのスイッチを切っても十分な明るさがあった。後はこのトンネルを右に辿って会社アジトに戻ればいい筈だった。



「あれはなんだ」

 ヘッドライトを消すと、会社アジトに戻るのとは反対方向に、トンネルの灯りとは違う光が見えた。


「ヤバくないすか…」

 大地の言葉通り、その灯りは存在しない筈の明かりだった。


「確認しに行くぞ。念のためにライトの用意をしておけ」

 耶麻人は小さな声で指示を出した。ここでいうライトとは対フェロドゥワーム用のフラッシュライトの事だ。


 トンネルはカーブになっているところだったので、その先を直接視認することは出来ない。ただその先から漏れてくる光は、人の本能に近づくなと訴えかけてきている。

 こんな光はフェロッソフしかありえないのだが、今まで志茂田しもだ隊が監視しているフェロッソフ以外は観察されていない。これがフェロッソフだとすれば第2のフェロッソフだという事になり、大問題になる。


 志茂田隊が監視しているフェロッソフは地下鉄跡のトンネル内に存在しているため、トンネルの反対側にも別の狼男の会社アジトがあり両側から取り囲むように監視している。

 今回発見したものが別の物だとすれば、監視網の外側という事になり新たな監視体制を作らなければならなくなるのだ。


 耶麻人を先頭にトンネルを進むと、トンネルの壁が崩れ、地面が露出している部分が見えてきた。中央には小型ではあるが不気味な光を発しているフェロッソフが確認できる。


「あれ、オレたちの所となんか違いますね」

「大地はビデオを撮っておけ」

「了解です」

 そう言って大地がスマホを出して撮影を開始する。


 大地が『違う』と言ったところは、フェロッソフが生えている場所の事だった。今まで監視していたフェロッソフはトンネルの地面に()()()いるのだが、ここのフェロッソフは天井から()()()()()()形になっていた。しかもその天井が明らかに人工物、ビルの基礎部分らしき構造物にめり込んでいるように見えるのだ。


「撮影が終わったら、気が付かれないうちに下がるぞ」

「大丈夫です、終わりました」

「先ほど入ってきた部屋まで撤退しろ」

「了解です」


 耶麻人は2人の退却が済んだことを確認すると、自分も退却を開始した。

 周りのパイプの灯りに変化が無いので、フェロドゥワームが出てくることは無さそうだったが用心は必要だった。




 入って来た部屋に戻り、扉を閉めてヘッドライトを点灯、全員の安全を確認する。


「この後はトンネルを通って会社アジトに戻る予定だったが、新たなフェロッソフの報告を最優先と考え方がいいだろう。急いで階段から地上に戻って連絡することにする。異議のあるものはあるか」


「それだと閂が内側から閉められませんが、どうします?」

 ちょっと考えて優雨丞が確認する。


「それはそのままでいい。報告後に会社アジトから別動隊を出して閉じてもらえばいいだろう。あくまで優先事項は報告だ」


「了解です」


 2人の返事を確認すると、耶麻人は階段のドアを開け2人を先に行かせ、最後にドアを閉めた。一刻も早く地上に出て連絡しなければならないため全員で駆け上がる。彼らが報告ができなければ、この緊急事態に誰も気が付かないという事になってしまうのだ。



 無事地上に戻った優雨丞は会社アジトに連絡を入れた。

「優雨丞です、緊急事態が発生しました」

 全速力で階段を駆け上がったため、息が切れている。感覚的には5、6階分の深さだろうか。


「大地は会社アジトに映像を送っておけ」

 耶麻人は大和に指示を出すと、階段の入り口の上に近くにあった埃だらけの筵を被せておいた。気休めではあるが入り口を目立たなくしておく。


「何があった」

 電話の相手が志茂田隊長に替わったので、状況を説明する。


「トンネルの先に新たなフェロッソフを発見しました。神社ドアの閂工事は終了していますが、入り口に戻って連絡をしているため閂は掛かっていません。トンネル側にメンバーを出して閉めるように指示してください」


「その件は解かった、手配する。それでそのフェロッソフはどこで見付けたんだ」

「神社入り口から入った先にあります。映像は大地が送っている筈なので確認してください。まさかとは思いますが、神社入り口まで出るという事は、フェロドゥワームに挟み撃ちにされる可能性も出てきます」


「解かった。それならお前たちももう一度下に降りて下で合流して援護に回れ。おそらく20分程度で到着するから、そのタイミングで合流にして下から戻れ」


「了解です」


 電話を切った優雨丞はぐるっと首を回して耶麻人と大地を確認した。


「もう一度下に降りろっていう隊長からの指示です。20分後に下のドアのところで合流だとの事です」


「人使い荒いっすね」

 大地が苦笑いをする。


「なに言ってるんだ、優しい隊長様だよ。オレたちは5分で下まで降りれる。つまり15分の休憩時間をもらったって事だ」


「そうだな、それはいい考えだ。確か外に自販機が有ったな。冷たいものでも買いに行くか」

 耶麻人は無表情のまま少しだけ口元を緩めた。

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