久遠の坂を下り、相見えるは妄執の辺獄
シノの出番です。
コツコツコツ、地下に降る階段、というより緩い傾斜を下ってゆく。
「凄いですね、結構降りてきてるはずなのにまだ、続くだなんて」
「まあ、地下に逃げ込むのは昔からの伝統じゃからの。換気も碌にできんのが欠点じゃ」
明かりは持たないので、洞穴は暗いが夜目がきくので問題はない。ところで、…………さっきのは冗談だろうか?
「いっそのこと、吹き曝しにするのはどうでしょう? 光を浴びないと、心まで暗くなりますからね」
「ああ、それはいい。ついでに、ここら辺が埋められても一興じゃな」
ほっほほ、と変わらない調子で笑うお爺さん、この人かなり過激だなと思いつつ気になってたことを尋ねる。
「お爺さんは何故、同じ集落に住む人々をそんなに批判的なんですか?」
髭に自然と伸びる手に気づき、片手で押さえながら、
「それは、今の雰囲気が大っ嫌いじゃからな。…………この歳じゃ、心変わりもする。最近は特に、な。それなりの中年になると己が固くなり、老いぼれになると更に偏屈になると思ってたんじゃが。まあ、なりきれない理由があるからかもしれぬの」
「なりきれない理由……」
大人ではない拙者にはまだ理解しきれないが、このお爺さんも元々は集落の人々のように考えていただろう。それでも、何かを経験して視野が広がり、見つめ直す機会を得た。変わらぬ己のままでいるのは孤独と同義だ。人は相手に関わる事で変容していく。それでも意固地になるのは、変化を恐れるから。
変化を恐れるからこそ、人々は守る為に武器を取る。そして強大な武力があれば、周りを屈服させる術があれば他を排除できる。
「今、この場所は変わらないようにする為に汚れを溜めているのか……」
水は大量にある分子の粒によって構成されている。流れ始めれば、清らかで澄んだ清流になる。
だが、滞れば何処からか沈殿したものが集まり、腐食してゆく。それは周りにも広がって……
「少し昔話の続きじゃが。当時の長、蟒蛇は決して戦いを行わなかった。周りはそれでも、いざという時になったらなんとかしてるという甘い希望に縋りついた。本当なら、民自身が自らの命を自らの意志に委ねなければならない。…………、だから臆病者と謗られても何も言い返せないのじゃ。そう教えたのが仇となるとは…………」
前を歩くお爺さんの背は今までより腰が曲がり、弱々しく見える。
「老いぼれの話は長すぎたの、そろそろ到着じゃ」
入り組んだ狭い細道から一気に広がり、重厚な建造物が出迎える。
「目的を忘れて、目先のことに惑わされた成れの果て。此処が黄泉、かつての夢の後じゃ」
作者自身は刹那主義の享楽家側の人間なので、そこまで永遠を考えたことない。代わりに、毎日コツコツやるのは苦手だけど。




