鏡の向こう、重ねれば……
さあ、新たな戦いの始まりだ!
「お姉さん、今度はどこ行きたい?」
「今度はユラちゃんがおすすめしてくれるところが良いな」
「いいよ! ここら辺の店なら、大体知ってるから……えっと、御膳招福の裏メニューとかどう?」
笑顔で提案してくれるユラちゃんに合わせて笑顔であるが、昨日の記憶が巡り若干引き攣っている気がする。
「裏メニュー…………?」
裏返った声で答えてしまう。もし、あれ以上のメニューがあったら食い切れるだろうか、そもそも前回でも一口は小分けで食べたが、その中に裏メニューとやらが入っていなかったかは分からない。
「うん! 全部のメニューを制覇したものか、常連客にだけ出してくれるんだよ」
「そう、…………それなら同じものじゃないわね」
安堵の息を吐き、また私たちは戦場に赴く。
「うぅ、クララちゃんが私の意見を聞いてくれない…………寒冷期というやつかしら」
しくしくと嘘泣きするルルレアも道連れに、私たちは店内に足を踏み入れた。
*
「せきじつに 溢れたものは すぐるひの」
「俳句か? 粋なやつだな」
里まで歩きでは遠過ぎる。だから、鬼車を使って向かう。鬼車とは、簡単に言えば鬼のものが引く人力車だ。基本は長距離に使う、まあ鬼の者たちは総じて誇りを持っているので、敬意を持って接することが大事だ。
「…………何もやらないのは落ち着かなくてな」
「そうか、確かに体は動かさねぇと疼くな」
ミシッとした筋肉は鬼の恵まれた体格と日々の精進によるものだ。この鬼は基本無口なのだが、客商売なので今回は無愛想に答えてくれる。
「舞い散るおうか すいきょうなり。…………まあ、拙者は酒飲んだことないのでござるが」
「大人になったら飲んでみると良い」
みんなそう言うが、実際どうなのだろう。今の刑部さんは中では飲まないし、外でも嗜む程度だそうだ。
白銀は、…………うん。疲れてるんだなぁって思った。今度、埋め合わせしないと。
自分のお父さんとお母さんに関しては、貧し過ぎてそれどころじゃなかったし。
あの人は…………、道具としか使わないと言ってたな。相手を酔わせるのが、酒にまで酔ってたら示しがつかないとか何とか。女性のあれこれについて知るつもりもないが、きっと重要なことだろう。
「その楽しみは、その時までお預けでござるな」
昔、ユラが生まれるより少し前。リヨさんに怒られる刑部さんを見た気がする。ユラが生まれてからはめっきり酔って帰るということはなくなったが、実は一つだけお気に入りの盃を残しているのを知っている。
元服を過ぎるまで後二年。それまでは飲むことはない。自分の両親が酒に強かったかは覚えてないので分からないが、いつか…………刑部さんに酒を注ぐことぐらいはしたい。
そのためにも、今は…………
腰にある短刀をより体に引き寄せて、現実に意識を戻す。
冷たくて、空が次第に荒れてゆく。この後は、拙者を追い払わんとする旋風が吹くに違いない。
蛟の集落近くまでで降りると、既に拙者の足でも下手に動いたら足元を掬われる。
「帰りはいるのか?」
「大丈夫でござるか?」
「別にこの程度でへばりはしない、場所もここで良い」
「すまん、代金は奉行所に言ってほしい」
まだ成人してない拙者には給料を直接渡されることがなかった。代わりに、刑部さんの許可制で多少は扱える。…………最近、互いに都合が悪いので、許可をもらってないが融通は利かせてくれるだろう。
一応、元服を超えたら貯金として返されるそうだが、別に食費かプレゼントぐらいにしか使わないので困ったこともないのだが。
「さて、行くでござる」
力強い相棒の感触を確かめて、足を踏み締める。
俳句は別に得意でない。
関係ないけど、シノくんどんどんフラグを立ててる気が……
???「ルルレア様ぁっ! 私は超遠距離でも良いですよ!」
↑侵食率 60%




