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進むべき道とは③

「燃え尽きたよ~」


 王宮の舞踏場にて、私はしゃがみ込んだ。あのお方のおかげで、精神的にクタクタだ。


「アリス、お疲れ様。かつての英雄を彷彿とさせる勇ましさだったよ」


「レオンこそ、大活躍だったね」


 お互いに讃えあっていると、連絡や調整を済ませたローズが戻ってきた。


「アリス、レオン、相談がありますの。お時間をいただけまして?」


 緊張感を漂わせるローズに、まだ戦いは終わっていないことを思い出した。両手で頬を「パン!」と叩き、気合いを入れて立ち上がる。


「いいわ! 何?」


「実を申しますと、異形の存在は数ヶ月前から、隣国で確認されておりましたの」


「え」


「討伐しなかったのかい?」


「ユル様が試みたものの、再生能力が高くて手に負えなかったそうですわ。それに、フラフラと歩くだけで、人や家畜を襲わないことから、害がないと判断されましたの。それでも、監視は続けていたそうですわ」


「なるほど。ユル様の国で発生したものが、なぜか国境を越えて、学園に侵入したというわけか」


「理由はあるの?」


「それは、まだ分かり……」


「俺への恨みを晴らしたいのだろう」


 ローズの話に被せてきた者がいたが、辺りを見回しても姿はない。この無礼な物言いといい、聞いたことのある声といい、考えつくのはあの人だ。

 

「もしかして、ユル様?」


 ローズは私を見てため息をつくと、指輪に話しかける。


「私なりに、順序立ててお話しておりますの。勝手に割り込まないでくださいませ」


「非常のときだ、大目に見ろ。あまり時間がない。俺から説明させてくれ」


「ああ、そういうことですか。では、ユル様のお話をお伺いしましょう」


 レオンは瞬時に状況を理解し、次の展開を求めるが、私にはさっぱりだ。


「適応能力の差かな!? 話についていけないよ!」


「ユル様、お気になさらず。ご説明を」


「放置!?」


「アリス、一旦、落ち着こうか」


 自分だけが理解できていないのは、何とも悔しいことではあるが、話を進めるために口を閉じる。


「お前たちも知っているように、傍流の俺が国を平定するためには、多くの反対勢力と戦う必要があった。

 政権を交代した以降も、しつこく俺の命を狙う者や、昔の俺が大いに世話になった者は、皆まとめて地下牢に放り込んでおいたのだ。アリスに言っただろう。ころしていないと。まあ、あの劣悪な環境なら、そのうちしぬだろうとは思っていたがな」


 当然のことのように言うが、相当ひどい内容ではないか。そんな仕打ちが受け入れられる人など、いるわけがない。牢の状況を想像するだけで、つらくなる。


「その人たちが反旗を翻したのですか。それにしても、瀕死の彼らがよく脱獄できましたね」


「いや、人であることを放棄し、魔物となった」


 今、さらりとすごいことを言ったぞ。厳しい表情をしていたレオンから、表情がなくなった。


「魔物を使役しているのではなく、自らを魔に堕としたと?」


 命懸けの復讐なんて、どんな気持ちか想像もできない。いかに自分が能天気に生きて来たかを思い知る。


「それでも、分かりませんわ。一矢報いたいならば、国内にいるユル様を狙うはずですのに。なぜ、ここへ現れましたの?」


「……それは、その」


 ローズの追求に、ユルが言い淀んだ。身に覚えがあるらしい。レオンの目が光る。


「もしかして、彼らに自慢話を聞かせたのではないですか? 例えば、アリスやローズとのエピソードを、五割り増しで」


 それは半分嘘ではないか。

 いくらユルでも、絶望の淵にいる人に対して、そこまで非道な真似はしないだろう。


「……許せ。そのくらいの嫌がらせをしてもいいと思ったのだ」


「図星かな!?」


「なるほど。彼らは、ユル様が一番苦しむ方法を選択したのか」


「ユル様っ! いかなる理由があろうと、我が国の民を危険にさらすことは許せませんわ!」


 滅多に感情的にならないローズが、烈火の如く怒る。


「……弁解のしようもない」


 ローズの異変に周りの生徒も気付き始め、少しずつ人が集まって来ている。


「みんなが聞いているよう」


「構いませんわ。皆さまには、知る権利がありますもの。ユル様には、後できっちり責任をとっていただきますわ」


 それはもちろんだが、私にはどうしても分からないことがある。


「彼らの狙いが、私とローズだとして、どうやって探すつもりかな?」


「探す必要はないよ。皆ごろしにすれば済むからね」


「では、学園の制服を覚えられたら、登下校中も狙われますわね」


 レオンが真顔で恐ろしいことを言い、ローズも負けずに最悪の事態を想定している。


「ええっ。そうなると、全ての魔物が討伐されるまで、ここでの避難生活は続くのかな!?」


「そうなるよね」


「仕方ありませんわ」


「でも……」


 初等部の生徒たちは幼いため、長期間は避けたい。そもそも、ユルの国でも倒せなかったのに、我々が対抗できるのだろうか。周りの生徒を見ると、完全に怯えていた。


(ですよね)


 みんな怖いのだから、上級生の私が弱気になってはダメだ。気持ちで負けたら現実でも勝てるわけがない。


「よーし! 早く解決して、みんなを家に帰してあげよう!」


「アリスの言う通りですわ! こちらも、負け戦をするつもりはありませんわよ。ただいま、国中の戦力を学園に集めておりますの」


「俺からも良い報告がある。光の民にも、ご協力いただけるぞ」


「え」


 ユル様から、信じられない話が飛び出した。光の民とは、神に愛された奇跡の一族だ。


 彼らは、常に旅をしているため、どこにいるか分からないし、お目にかかれる機会は数年に一度、あるかないかだ。


 それなのに、このタイミングで学園に来てくれるというのか。


「通常の武力では、お手上げだからな。交渉は大変だったが、若手のホープであるサラ様が来てくださる。今、飛竜に乗って一緒に向かっているから、もう少し耐えてくれ」


「分かりました。僕らにも、できることはありますか?」


「聞いてみよう」


 レオンの質問を聞くため、指輪の向こうではユルが大声で叫んでいた。違う飛竜に乗っているため、会話がしづらいらしい。


 自分の居場所は自分で守りたい気持ちは、よく分かる。私も、何もせずに待っているのは落ち着かない。


「武器や食糧の運搬とか、情報収集ならできるよ」


 私が参戦の意思表明をした途端、二人は拒絶の体制に入った。


「遠慮するよ。アリスが来ると、みんなの気が散るからね」


「その通りですわよ。ここで後輩の面倒を見ている方が、よほど役に立てますわ」


「……あしでまとい」


 しょぼんとしていると、ユル様の声がした。


「えーと、伝えるぞ。サラ様は、甘くて美味しいお菓子をご所望だ。終わったらすぐにお召し上がりになりたいそうで、今から準備して欲しいとおっしゃっている。……頼めるか?」


 三人で顔を合わせてキョトンとする。


「戦力の応援は、必要ありませんの?」


「まあ、そういうことだ。学生諸君は、お茶会の準備に励め」


「ちょっとよく分からないけれど、もしかして、奇跡を起こすには糖分が必要なのかな?」


「あははは! すごいな! サラ様は、戦いに負ける気なんてないんだ!」


 レオンの言葉に、ローズは勝利を確信したように微笑んだ。


「ユル様! 王家の威信に欠けて、最高級のお菓子をご用意いたしますと、お伝えくださいませ!」


 彼女の力強く明るい声が、舞踏場に響いた。遠巻きに見ていた生徒たちから、ワッと歓声が上がり、ローズは彼らの方を向く。


「皆さま! お聞きになりましたわね! サラ様が駆け付けてくださいますわ! 我々の勝利は目前です! もう、恐れることはありませんわ! さあ、我々の意地にかけて、最高のお茶会にいたしますわよ!」


「おおーっ!!」


 戦いの場に赴かなくとも出来ることはある。私たちには、私たちの戦いがあるのだ。


 一致団結した私たちは、かつてない規模のお茶会を開催するため、大喜びで準備に入った。先ほどとは打って変わって、みんなの顔が明るい。


「ここまで計算していたとしたら、サラ様はすごいね」


 レオンが呟く。


「うん、そうだね」


 まだ見ぬサラ様に、私は期待は膨らむばかりだった。

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