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本当の姿

「ぐああああっ!」


 彼の体がグングン大きくなり、腕は太く、逞しくなっていく。私よりも低かった身長は、もう越されただろう。


「アリス、ごめん。ユルの変化が落ち着くまで、しばらく辛抱して」


 このままですか。


 自分で招いたこととはいえ、抱き枕状態なのはツライ。せめて、彼の痛みが軽減できればと、背中をさする。


「そいつに優しくする必要はない」


 ラウル様はそう言うけれど、男性と密着しているという異常事態から、少しでも気を逸らしたいのだ。前にはユル、後ろにはラウル様のサンドイッチ状態では、刺激が強すぎてどうにかなってしまう。


「自分のためにしているだけです」


 じぶんのため?

 このとき、私は閃いた。

 今こそ、妄想力が役に立つのでは。


 男性だと思うから意識してしまうのだ。病気の大型犬を介抱している設定にしてみたらどうだろうか。柔らかい毛並みは、妄想力でカバーする。


 ……うん、いける!


 その背を撫でる手が、さっきよりも優しい自分に驚く。イメージトレーニングはいいと聞くけれど、本当だ。


 やがて、うめき声が収まってくると、フーッと大きく息を吐いて、ユルが脱力した。そこを見計らって、ラウル様が彼を押す。


「彼女から離れろ」


「……いやだと言ったら、どうする?」


 その気だるい声は、犬のものではない。いきなり現実に引き戻されて、私の愛犬は消えてしまった。突如、現れた若い男性に驚愕する。


「は、離して!」


 驚いて体を押しのけようとしたが、びくともしない。それどころか、さらに強い力で抱きしめてくる。


「いやなら、その腕を切り落とすまでだ」


「それは困る。今回は分が悪い。続きは、また今度にしよう」


 パッと拘束が解かれると、ラウル様がすかさず私を引き寄せ、そのまま抱き上げる。ユルと間合いをとると、ふわりと下ろしてくれた。


「え?」


 そこには、見覚えのない人がいた。


 背が高くて、端正な顔立ちの男性だ。銀の髪は肩くらいまであり、歳は二十代後半に見える。いままで、あの人とハグしていたのか。小太りのおじさんはどこへ行ったのだ。


「次はない。お前は牢屋行きだ」


 ラウル様が、剣に手をかけて牽制する。


「いや、ハゥラスは死んだ。もともと、そんな奴は存在しなかったのだが。とにかく、逮捕される謂れはない。ここからも、堂々と出ていくさ」


「させるものか! 僕たちが証人だ!」


「誰が信じる? 姿形だけではなく、年齢すら合わないのだぞ? 頭がおかしくなったと言われるのはお前たちの方だ」


 レオンも食らいつくが、それを彼は嘲笑う。ユルの言う通り、同一人物だと証明するのは不可能だ。それでなくとも、恩人を刑務所へ送るなんて、クロードにできるわけがない。


「……確かにそうだな。だが、逃がすわけにはいかない。か弱い女性を傷付けた罪で、貴様を逮捕する」


 それは、私のことかな?


 話の腰を折るようで気が引けるが、これは自分から怪我をしたようなものなので、逮捕の理由にされるのはかわいそうだ。身柄を押さえたい気持ちは分かるが、でっち上げはよくない。


「あの、この傷は、私のミスです。彼のせいではありません」


「……奴を庇うのか?」


 そんなつもりはありません。 

 冤罪を未然に防ぎたいだけです。

 あと、顔が怖いです。


「君は、天使なのか」


 ユルが、おかしなことを言い始めた。

 すかさず、レオンが前に出る。


「いや。アリスは天然だ。この子の行動に深い意味はないから、勘違いしないほうが身のためだよ」


 ……レオン君は、誰の味方かな?


「ユル様、その、体は……」


「ああ、心配をかけたな。もう、大丈夫だ」


 いや、クロードが聞きたかったのは、そこじゃない。今の姿について、説明して欲しいのだと思う。


「おい、お前の体はどうなっている」


 さすがは、ラウル様。

 単刀直入に聞いてくれた。


「ん? ああ、これが本当の姿だ」

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