友だちの壁は、とても厚い(レオン視点)
「……今日のレオンは、謎が多いわ」
理解が出来ない彼女は、僕の手を離し、お手上げとばかりに天を仰ぐ。
「そう? 君が気付かなかっただけだよ?」
親友だと思い込んでいるアリスは、僕を男として見てくれなかった。甘い言葉をかけても、態度で好意を表しても、華麗にスルーだ。
「ごめんね。レオン」
「ん? どうして謝るのかな?」
この言葉の軽さからみても、僕の恋心に長年気付かなかったことに対する謝罪ではない。さては、「僕の意図は分からないけれど、とりあえず謝っておこう」とでも思ったのかな。
少しかがんで、アリスと目の高さを合わせる。
「考えるのが面倒になったの?」
「え」
彼女は目を丸くして、「何で分かったのかしら」と呟いた。付き合いが長いから、アリスの考えそうなことは、だいたい分かるよ。
「疲れてる?」
「いいえ。さっきまで寝ていたから、元気よ」
その笑顔を見る限り、言葉に嘘はない。
施術中に休憩できたのなら、よかった。
それにしても、船を漕ぐアリスに、メイクやヘアセットを施すとは、さすがはプロだ。
「では、お腹が空いているのかな?」
「うん」
いい返事だ。
アリスはお腹が空くと、口数が減る。
そのまま食べずにいると、次第に体を動かすことも億劫になり、最後には完全に停止する。そうなる前に、レストランへ連れて行こう。
「歩いて行こうと思ったけど無理かな? 抱っこで行く?」
「うふふ。一人で歩けるわ」
冗談だと思ったのかな。
面白そうに笑う彼女だが、僕は本気だよ。
「では、腕を組もう。逸れたら大変だからね。今日の街は人が多い。君を守るためには必要なんだよ」
「そうなの?」
「窓の外を見てごらん」
アリスは素直に外を見て、絶句した。
「分かってくれたかな。お嬢様、お手をどうぞ」
「……はい」
彼女をエスコートして店を出ると、人気女優の出待ちかと思われるほどの、多くの男性が詰めかけていた。皆が食い入るように彼女を見つめ、「なんて美しい!」「絵姿よりも素敵だ!」と感嘆の声をあげる。
「アリス、おいで」
さりげなく、彼女を抱き寄せる。
男たちの悲鳴が轟くのを、彼女はどう思っているのだろうかと顔を見ると、後ろをキョロキョロ見ている。
「どうしたの?」
「どこかに綺麗な人がいるらしいの」
頭が痛くなってきた。
彼女は、自分の価値が分かっていない。
男を徹底的に取り除いたせいか、アリスが特別に鈍感なのかは不明だが、自意識過剰よりはいいと思うことにする。
「さあ、行こう」
気を取り直して、歩き出す。
二人の後を、ぞろぞろと男たちが付いてくるが、僕の護衛が取り囲んでいるので、アリスは気付かない。
こんなに近くに彼がいるのに、何にも感じないことに驚きながらも、アリスだから仕方がないかと、妙に納得した。
「この店だよ。君と来てみたかったんだ。二人っきりで」
極上の笑顔で話しかけたのだから、頬を染めてもいいはずなのに、彼女は同情の目で僕を見る。なぜだ。
もしかして「レオンには、一緒に来てくれる友だちがいないのね」とでも思っているのかな。
「また、脳内で変換してるでしょ」
「わ、バレてる」
「言っておくけどね、僕は、そこそこモテるんだよ? 紳士の嗜みとして、女の子を喜ばせるセリフも言えるのに、なんで君には通用しないんだろうね? 不思議で仕方ないよ」
「そう言われましても……」
やはり、アリスは手強い。
僕は友だち歴が長かったから、もしかするとラウル様よりも分が悪いのかもしれない。
(参ったな)
強引に行かないと気付いてもらえないし、やり過ぎても引かれてしまうかもしれない。いい塩梅にするには、どうしたらいいのだ。
悩めるままに入店し、スタッフに案内されて席に着くと、多種多様のメニューに、アリスの目が釘付けになる。
「わあっ! お料理がたくさんあるのね!」
ここは、多国籍料理の店だ。
アリスが一度は食べたいと言っていた、各国の代表的な料理がずらりと並んでいる。その素直な反応が可愛い過ぎて、思わず「あははは!」と笑ってしまう。
「そんなに喜んでもらえるなんて、嬉しいよ。今日は僕が奢るから、何でも食べて」
「わあい!」
興奮ぎみのアリスを眺めながら、いつもになく緊張している自分に気付いた。これから彼女に大切な事を告げると思うと、胸の鼓動が速くなる。
そんなことを知らない彼女は、いつも通りの無邪気な笑顔を僕に向けるから、罪な人だ。
レストランの外から、彼の切ない視線を感じているのも僕だけだろう。それを気の毒に思いながらも、勝負を譲る気はない。
いや、余計なことを考えるのはよそう。
今は、このひとときを楽しむことにした。




