第24話:格差社会の学外巡検!? 秋の修学旅行と、裏のプレミアムシート確保計画
秋風が吹き抜ける中庭、掲示板の前に群がる生徒たちの喧騒。
この世界にも律儀に四季は存在し、木々が鮮やかに色づき朝晩の冷え込みが増してきた頃合い、王立魔法学院の風物詩が幕を開ける。 『秋季・学外魔導実地巡検(※要するに修学旅行)』 魔法王国とは名ばかりで、箒で優雅に空を飛ぶようなおとぎ話のファンタジーは存在しない。移動手段は現実的な魔導列車や大型魔導馬車であり、そこには冷酷なまでの「身分・ランク・資本主義の格差」が横たわっていた。 張り出されたコース分けを前に、生徒たちの歓声と嘲笑が飛び交う。 「オホホ! S・Aランクの特権貴族組は、南のリゾート温泉地『エル・ヴァルカ』へ豪華特等魔導寝台列車で行くのね!」
「B・Cランクは隣国の歴史的魔導都市か……まあ悪くないな」
「で、Fランクの貧乏モブどもは……ぶっ! 近場の枯れ木だらけの荒野で『魔導雑草の採取キャンプ(テント泊・自炊)』だってよ! ぎゃはは!」 上位貴族たちが指を差してゲラゲラと笑い転げる中、私——Fランクモブ令嬢のホナは、新制服の腰ポーチに指先を添え、無表情のまま冷徹な演算を走らせていた。 (……南のリゾート温泉地エル・ヴァルカ。あそこには、ルミナリア様が『一度行ってみたい』と零していた極上の天然魔導炭酸泉が存在する……!) 特権貴族向けの超豪華プラン、参加費は一人頭3,000万ヴァルカ。
通常のFランク生徒が一生を捧げても届かない金額だが、私の「裏社会最強の運び屋口座(兼・共同生活基金)」には、先の政略結婚破断ミッションで得た2,000万ヴァルカがプールされている。あと1,000万ヴァルカを調達できれば、ルミナリア様の分と合わせて『特等席の正規アップグレード枠』を裏ルートから買い取れる計算だ。 (荒野の草むしりキャンプなどコンマ1秒でスキップ確定です。南のリゾートで、ルミナリア様に最高峰の湯治と極上のソルティ・カザフ(温泉限定塩キャラメル味)を堪能していただかねばなりません!) 脳内の時間管理コンピューターが、爆速で最適解を導き出す。 【ミッション策定:学外巡検の出発(3日後)までに1,000万ヴァルカを調達せよ】 その思考に呼応するかのように、腰の隠し端末が「ツツッ」と微小な振動を伝えてきた。
裏社会の闇ブローカーからの新着案件だ。 『緊急案件:学外巡検用・特等魔導列車の先行点検ルートに潜む、希少な古代魔導結晶の回収。報酬:1,500万ヴァルカ。所要許容時間:今夜の消灯後4分20秒以内』 (……完璧すぎるタイミング。これを受注すれば目標達成どころかお釣りが出ます) 静かに唇の端を持ち上げる。箒で空を飛べない世界だからこそ、地上を走る魔導列車の線路や中継ポイントの地理・時間管理は、運び屋たる私の完全な独壇場なのだ。 「……ホナちゃん?」 背後からの澄んだ声に、ハッと振り返る。
そこには、秋の柔らかな木漏れ日を浴びて佇む、息を呑むほど美しいルミナリア様がいた。新制服のグレーのベストを着こなすその姿は、一幅の名画そのものだ。 「ルミナリア様! 学外巡検のコース、ご覧になりましたか?」 「ええ。私は特等席のエル・ヴァルカ行きに割り振られているけれど……ホナちゃんは荒野キャンプなんでしょ? 一緒に行けないのは、少し寂しいな」 伏せられた睫毛と、寂しげに揺れる微笑み。
——その瞬間、私の全回路が沸騰した。 (行かせます!! 絶対にルミナリア様と同じ特等寝台車に乗り込んでみせますとも!!) 「だ、大丈夫ですルミナリア様! 私、荒野の雑草にも並々ならぬ学術的興味がありますので! 決して気に病まないでください!」 「そう?……君はいつでも前向きで偉いね」 愛おしそうに頭を撫でられ、その温もりに蕩けそうになる思考を必死で引き戻す。今夜の1,500万ヴァルカ回収ミッションに向け、指先の精密ピンセットと物理衝撃波発生器の出力を密かにチェック。 「よし……! 今夜の作戦に備えて、購買で限定の『秋の味覚・焼き芋ソルティ・カザフ』を事前補給しておかないと!」 輝かしい南国リゾート旅行を胸に描き、購買へ向けて軽快にダッシュを踏み切った——その瞬間。 ずてーっっっん!! 「あぎゃっ!?」 何もない平坦な廊下、秋風が運んできた「たった1枚の落ち葉」に見事なまでに足を滑らせ、盛大に宙を一回転して背中から床へ激突。 腰のポーチから「古代魔導回路の設計図」「精密スパナ」、そして大事に握りしめていた「焼き芋ソルティ・カザフ引換券」がパァァン!と派手に宙を舞った。 「うぅぅ……! お、落ち葉の摩擦係数がゼロに……っ! 私の引換券があぁぁぁ!」 涙目で床を這いずり回り、四つんばいで必死に引換券を追いかける私。
その様子を遠くから見つめていたルミナリア様は、涼やかな瞳をふっと和ませ、静かに吹き出した。 「……ホナちゃんは本当に、見ていて飽きないな」 魔導列車で往く、秋の修学旅行。
格差社会のポンコツ魔法王国で、モブ令嬢が繰り広げる「裏の特等席強奪(正規購入)大作戦」のカウントダウンが始まった。
(第25話に続く)




