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ヴェリタスの最終定理 PART4/飛竜の覚醒   作者: ♡Wan Liyue♡
●第11章:再生する世界

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45/75

定理45:自分のアイドルを推していたい!(前編)

●リメイク元

「ナラティブ・ヴェリタス」侵食される日常

「ナラティブ・ヴェリタス」未来から来た黒い百合

「ナラティブ・ヴェリタス」世界からの不採用通知

「個と全の境界線は、高い粘度の愛の前では、物理的にも概念的にも溶解する」


王都の朝は、いつものように蒸気と魔導ノイズ、そしてドーナツを揚げる香ばしい匂いと共に始まるはずだった。

ヴェリタス探偵事務所にて。

最強の魔導師エラーラ・ヴェリタスは、眉間に深い皺を刻み、目の前の「物体」を凝視していた。


「……ナラティブ、これは一体どういう冗談だい?」


「冗談ではありませんわ、お母様。あたしだって困惑しているのです」


エラーラの手には、マグカップが握られている。いや、「融合」していた。隣では、ナラティブ・ヴェリタスがナイフとフォークを構えていたが、両手の金属食器はすでに「ひとつの銀色の塊」となり、皿の上のステーキは付け合わせのポテトと渾然一体となって、得体の知れない有機的な泥と化していた。


「見て!お姉ちゃん!私のケーブルがサラダに刺さってドレッシングを吸い上げてるよ!新しいエネルギー補給?」


「グリッチさん、それは単なる漏電と汚染です。……あら、私のエプロンも、ドレスとくっついて……取れませんわね」


グリッチ・オーディナルとアリシア・ヴェリタスもまた、世界の「境界線」が曖昧になる現象に巻き込まれていた。


「……解析完了だ。何らかの強大な概念存在が、王都全体を『ひとつ』にしようとしている」


エラーラが冷静に分析した瞬間、窓ガラスが「液体」のように波打ち、室内に流れ込んできた。それは半透明の粘液状の怪異であり、意思を持ったアメーバのように四人を包囲する。


「ほう、興味深い。この粘液の主成分は、対象の『執着心』を触媒にしているのか」


「解説している場合ですか、お母様!」


ナラティブが叫ぶが、遅かった。

怪異は、彼女たちの「欲望」を餌に、甘美な幻影を見せたのだ。

エラーラの前には「解読不能な古代の石板」が。

ナラティブの前には「無限に湧き出る霜降りステーキ」が。

アリシアの前には「誰もが手を取り合う平和な世界」が。

そしてグリッチの前には「全裸のエラーラ」が。


「……フム。少しだけ触れてみようか」


「いただきますわーッ!」


「さあ、ハグをしましょう」


「お姉ちゃーーーん!」


瞬く間に、ヴェリタス探偵事務所の最強メンバー四人は、自ら怪異の中にダイブし、巨大なスライムの一部として取り込まれてしまった。


一方その頃、王都駅前のドーナツ店『ミスター・マジック』。

ここでもまた、世界は崩壊の危機に瀕していた。


「なんだこりゃ!?俺のオールドファッションが、カフェオレと結婚してやがる!」


王都中央警察署のカレル・オータム警部が絶叫した。彼の手の中で、ドーナツは液体化し、茶色い泥となって制服のズボンに滴り落ちている。


「父さん!物質のトポロジーが狂っています!」


息子のゴウ・オータムが、スレート端末を必死に操作しながら叫ぶ。


「あーもう!あたしの自慢の尻尾の毛並みが、椅子とくっついて離れないんだけど!?」


狼獣人のリウ・ヴァンクロフトが、野性的な勘で危険を察知し、無理やり立ち上がろうとして「ベリベリ」という嫌な音を立てた。彼女の金髪ポニーテールも、重力に逆らって天井に向かって伸びている。


「……リウお姉ちゃん。……パフェが、溶けた。……悲しい」


その横で、妹のルル・ヴァンクロフトが、ドロドロになったパフェを虚ろな目で見つめていた。


「呑気なことを言ってる場合か!逃げるぞ!」


リウがテーブルを蹴り飛ばし、全員を促す。

店の外では、すでに建物と地面、馬車と御者が融合し、街全体が巨大なスライムの胃袋のようになりつつあった。


「歯車通りへ向かう!あそこならジャンクパーツが多すぎて、怪異も消化不良を起こすはずだ!」


カレルの判断で、四人は路地裏へと駆け込んだ。

王都の裏側、鉄屑と蒸気が支配する「歯車通り」。入り組んだ迷路のようなこの場所だけが、まだ辛うじて原型を留めていた。


「父さん、この怪異、ただの物理現象じゃありません!『執着』です! 何かに強く固執している人間ほど、早く溶かされています!」


走りながらゴウが叫ぶ。

その言葉に、カレルは顔色を変えた。

ゴウの懐には、厳重に梱包された包みがあった。それは、エラーラから「見つけたら借金してでも買っておいて」と頼まれていた、旧文明の超レアな演算ユニットだ。


「ゴウ!その包みを捨てろ!それがお前の『執着』のアンテナになってる!」


「で、でもこれ、師匠がすごく欲しがってた……僕が届けなきゃ、師匠の研究が……!」


ゴウは真面目すぎた。師への敬愛と責任感が、彼を怪異のエサへと変えてしまう。

背後から、津波のような粘液が迫る。その先端が、鎌首をもたげてゴウを狙った。


「ゴウ、危ない!」


ドンッ!


カレルが息子の体を突き飛ばした。

代わりに粘液に飲まれたのは、カレルだった。

カレルは、息子を守るという「親としての強烈な執着」を逆手に取られ、瞬く間に半透明のゲルの中へと沈んでいった。その顔は、息子を救った満足感と、これから溶かされる恐怖がない交ぜになっていた。


「父さぁぁぁん!!」


「ゴウ、立つんだ!父さんの犠牲を無駄にするな!」


リウが泣き叫ぶゴウの襟首を掴み、無理やり引きずって走る。彼女の腕力だけが頼りだった。

ルルも遅れじとついてくるが、その瞳は常にスレート端末の画面を追っている。


「……解析、不能。……でも、ナラちゃんの反応、あり」


ルルが足を止めた。

路地裏の突き当たり。そこに、道を塞ぐように鎮座する巨大なスライムの塊があった。

その半透明の腹の中に、黒いドレスの少女が浮かんでいた。

ナラティブだ。彼女はスライムの中で、幻影のステーキを幸せそうに頬張っている。


「……ナラちゃん」


ルルが呟く。彼女にとって、ナラティブはただの友人ではない。ゲーマー仲間であり、そして密かに憧れる「推し」でもあった。


「ルル!見ちゃダメだ!取り込まれるぞ!」


リウが叫ぶが、ルルの耳には届かない。


「……ナラティブ。……一緒になる」


ルルはスレート端末を放り出し、フラフラとスライムへ歩み寄った。

スライムの表面が、歓迎するように開く。

その中には、無防備なナラティブがいる。

ルルは自らスライムに抱きつき、そして沈んでいった。


「馬鹿野郎!どいつもこいつも、欲望に忠実すぎんだよ!」


リウは地団駄を踏んだ。

残されたのは、リウとゴウのカップルだけ。

リウは「自由人」であり、ゴウを愛しているが、依存しているわけではない。ゴウは「恐怖」が勝っており、執着を持つ余裕がない。

だからこそ、二人は生き残っていた。


「リウさん、あそこへ!『王都魔導規制局』の合同庁舎です! あそこなら対魔導障壁があるはず!」


ゴウが指差す先、無機質なビルが聳え立っている。

二人は最後の力を振り絞り、庁舎のロビーへと滑り込んだ。

そこには、異様な光景が広がっていた。

ロビーは無数の怪異スライムに包囲されていた。

だが、その中心で、一人の女性が仁王立ちしていた。

竜人のアスナ・クライフォルトだ。

彼女は炎を吐き、書類を振り回して応戦しているが、奇妙なことに、怪異たちは彼女に触れようとしない。まるで腫れ物に触るように、一定の距離を保ってウネウネしている。


「私は忙しいんです!エラーラさんの指名手配書の更新とか、隠し撮り写真の整理とか、やることは山積みなんです!」


アスナが叫び、炎を放つ。スライムたちは「すいません」「ごめんなさい」と言わんばかりに縮こまりながらも、決して彼女を飲み込もうとはしなかった。


「……は?」


リウとゴウは、その場に立ち尽くした。

最強のエラーラたちが瞬殺されたこの世界で、なぜ「エラーラへの執着の塊」であるアスナだけが、無傷で生き残っているのか。

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