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【ヴェリタスの最終定理・コメディルート】  作者: 王牌リウ


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定理15:獣のミステリーを暴きたい!(後編)

「視ないことで守られる真理」と三千万クレストの報酬を手に王都へ帰還した一行が、旅の汚れを落とす間もなく事務所のドアを開けた瞬間、リウ・ヴァンクロフトの乱入によって物語は新たなる「神秘の探索」へと強制的に移行することになる。


ドォォォォォン!!


ヴェリタス探偵事務所の重厚なオーク材の扉が、蝶番の悲鳴と共に物理法則を無視した勢いで開け放たれた。


「ナ、ナラティブ!大変なんだよ!起きてくれよ!」


飛び込んできたのは、狼獣人のリウ・ヴァンクロフトだ。彼女はカウンターに突っ伏していたナラティブの肩を激しく揺さぶった。


「う、うぅ……。なんですの、リウ。あたしは今、昨日までの激務による疲労物質を分解するために、戦略的な仮眠をとっていたところですのよ……」


「寝てる場合じゃねえんだ!あたしたち獣人の間で、とんでもないバグ……じゃなくて、不吉な噂が流れてるんだぜ!」


「騒がしいね。リウ君、君の興奮によるデシベル値は、私の聴覚センサの快適許容範囲を十五パーセントほど突破している。まずは深呼吸をして、酸素を脳に供給したまえ」

 

ソファで山積みのハニー・グレーズド・ドーナツを優雅に咀嚼していたエラーラ・ヴェリタスが、金色の聴診器『真理の眼』を揺らしながら立ち上がった。


「エラーラ、ドーナツ食ってる場合じゃねえんだよ!」


「私のドーナツ摂取は生命維持活動の一環だよ。で、緊急事態とは?」


「夜な夜なジャンク街の地下通路に、正体不明の不審な獣人が現れるんだ!しかもそいつ、あたしやルルのものよりも遥かに巨大で、あり得ないほど分厚い尻尾を引きずっているらしいんだよ!」


「フム。巨大な尻尾か」


「そうなんだよ!獣人たちのプライドを踏みにじるような、とんでもねえ膨張率の尻尾なんだぜ!これは宣戦布告だ!……なあ、ナラティブもそう思うだろ!?」


リウに同意を求められたナラティブは、なぜか視線を激しく泳がせた。


「え?あ、ええ。そ、そうですわね。……けしからんですわ」


「だろ!?許せねえよな!」


「ええ、まあ。……でも、リウ。そんなの、ただの地脈のノイズが見せた集団幻影に決まっていますわ」


「幻影?でも目撃者がたくさんいるんだぜ?」


「ほら、昨日は磁場が不安定でしたし、今日はみんな疲れているのよ。不審者なんて、王都警察のカレルおじさんに任せておけばいいのですわ。あたしたちは、おとなしく事務所でアリシア姉様の淹れた珈琲でも飲んでいましょう?ね?そうしましょう?」


ナラティブは鉄扇を不自然な手つきでパタパタと扇ぎ始め、その額には隠しきれない冷や汗が浮かんでいる。


「……あ、あの……」


部屋の隅から、陰気な声が聞こえた。ルル・ヴァンクロフトだ。


「どうしたの、ルル」


「……ナ、ナラティブさん。……し、心拍数が……異常です」


「えっ」


「……嘘をつくとき特有の……末端血流の増加が……見られます。……その汗、……塩分濃度が高そうです……」


「な、何を言っているのルル!あたしはただ、室温が高いから汗をかいているだけですわ!」


「……で、でも、瞳孔が開いています……。……それに……微かに……獣の匂いが……」


「ひぃっ!?匂い!?嘘でしょう!?昨日お風呂に三回入りましたわよ!?」


ナラティブが自分の袖をクンクンと嗅ぎ始める。


「フム。……面白い。語るに落ちるとはこのことだね」


エラーラが、ニヤリと笑った。


「えっ?お母様?何を笑っていますの?」


「既存の生物学的な論理を完全に無視した極太の尻尾。それは王都の生態系における致命的なバグ、あるいは私の知的好奇心を刺激するための挑戦状だ」


「い、嫌な予感がしますわ」


「ナラティブがそんなに腰が引けているのなら、この私が直接デバッグしてあげようじゃないか」


「お、お母様!?余計なことに首を突っ込まないでくださいまし!あれはきっと、ただのファッションというか、個人の自由な表現の範疇かもしれませんわよ!……そう、多様性ですわ!」


「多様性?君にしては随分とリベラルな発言だね。普段は『品位がない』と切り捨てるのに」


「そ、それは……ケースバイケースですわ!」


そこへ、キッチンからアリシア・ヴェリタスが現れた。


「あらあら、お出かけですか?それなら、ちょうど良いお茶請けのクッキーが焼き上がりましたから、お弁当に持っていってくださいな」


「あ、姉さん……。いえ、あたしは……お留守番を……」


一行はナラティブを探偵事務所に置き去りにして、目撃情報のあったジャンク街『歯車通り』へと繰り出した。そこに、たまたま非番で通りがかった王都魔導規制局のアスナ・クライフォルトが合流することになったのは、必然的なバグであろう。


「なんで!なんで非番の日に、あなた達とドブ川の近くを歩かなきゃいけませんの!」


「やあ、アスナ君。奇遇だね」


「奇遇じゃありませんわ!私は駅前の新作スイーツを食べに行く予定でしたのに!離してください!服が汚れますわ!」


「諦めたまえ、アスナ君。君の持つトラブル吸引体質は、私の計算によると確率論的必然だ」


「そんな確率、計算しないでくださいまし!帰ります!私は帰りますわよ!」


「それに、君のその極太の竜の尻尾は、今回の事件の参考資料として非常に有用だよ。比較対象が必要なんだ」


「私の尻尾を実験台にしないでください!これは公務員の威厳の象徴ですのよ!」


「いいから付き合えよ、アスナ。終わったらステーキを奢ってやるからさ」


リウがアスナの背中をバシバシ叩く。


「痛いですわ!もう、わかりましたわよ!その代わり、高級なやつですわよ!」


エラーラによる聞き込み調査が始まった。


「そこの猫獣人の君。少し話を聞かせたまえ」


「えっ、あ、はい。何でしょう」


「三日前の深夜、この辺りで異常な質量の尻尾を見なかったかね?」


「ああ、見たよ。凄かったぜ。真っ白な猫耳をつけた奴が、暗がりを歩いていたんだ」


「具体的には?」


「そいつの尻尾、俺の胴体より太かったんだぜ?物理的におかしいだろ。あんな重そうなものをぶら下げて、なんかこう、えっちな格好で千鳥足で歩いてるんだ」


「えっちな格好?」


「ああ。『重い……でも、尊い……』とかブツブツ言いながら、壁に手をついてたよ」


「ほう。興味深いね」


「呪いか何かかと思ったよ。あんなの、まともな神経じゃねえ」


続いて、時計塔の屋根で休んでいた鳥獣人の少女にも話を聞いた。


「空から見えたわ。黒髪の女が、猫の耳を生やして、地面を掃除できそうなくらい太い尻尾を引きずっていたわ」


「黒髪?ほう」


「その格好……なんていうか、すごく際どいドレスで、見てるこっちが恥ずかしくなるような……」


「詳細は?」


「背中がぱっくり開いてて、そこから尻尾が生えてるの。露出度が高すぎて、空気が冷たいはずの夜なのに、そこだけ熱帯夜みたいだったわ」


「ちょ、ちょっと待ってください!背中が開いている!?公然わいせつ罪の適用範囲内ですわよそれは!」


アスナが顔を赤くして叫ぶ。


「わたくしも見かけましたわ」


聖アフェランドラ学園の元教員だというエルフの貴婦人が加わった。


「あのような、理性を完全に放棄したかのような極太の尻尾……。王都の規律はどうなっているのかしら」


「先生、どのような点が気になりましたか?」


「あんな破廉恥な格好で、自慢げに尻尾を振り回して夜道を歩くなんて。エルフの美学からは程遠い、野蛮な、あまりにも野蛮な欲望の具現化に他なりませんわ」


「なるほど」


「……でも、少しだけ、触ってみたかったですわね。あの弾力は、お布団のようでしたもの」


「フム。……すべての証言が一致している。正体不明の獣人、不条理な極太尻尾、そして露出度の高い衣装」


エラーラが結論付けた。


「どうやらこのバグは、特定の酒場『ぷにぷにファクトリー』周辺で最も活発に活動しているようだ。よし、総員、突撃だ」


「ぷにぷにファクトリーってなんですのそのふざけた名前は!」


「文句を言うなよアスナ。名前は可愛いだろ?」


「可愛くありませんわ!風俗店の匂いがします!」


『ぷにぷにファクトリー』の入り口付近。エラーラたちはついにその不審者を捕らえた。


「確保ーッ!!」


リウが飛びかかる。


「ひゃああっ!?」


暗がりから現れたのは、真っ黒な猫耳を頭頂部に生やし、背中が腰の付け根まで大胆に開いた黒のドレスを纏った女性。そしてその腰には、重機のような圧力を伴って鎮座する『極太の尻尾』。


「貴様が王都の安寧を乱す……って、えええええええっ!?」


アスナが魔導灯で照らし出した瞬間、絶叫した。


「こ、これは国家公務員の守秘義務を突破するレベルの衝撃ですわ!」


そこにいたのは、市販の変身薬『マン・ビースト』を過剰摂取し、自らの深層心理に眠る禁断の趣味を物理的に具現化させたナラティブ・ヴェリタス、その人だったのである。


「……な、ナラティブさん!?」


「げっ!?」


「その格好、一体何ですの!頭の耳も、その、あり得ない太さの尻尾も!」


「こ、これは……その……」


「それからその……布面積が絶望的に足りない衣装は!これは王都風俗規制法、及び魔導薬物乱用防止法にダブルで抵触しますわよ!逮捕!現行犯逮捕ですわ!」


アスナが太い竜の尻尾を怒りで地面に激しく打ち付ける。


「……放しなさい!あたしはただ、正当な余暇を過ごしていただけですわ!」


ナラティブは猫耳をピコピコと動かしながら、真っ赤な顔で開き直った。


「余暇!?これが!?」


「そうですわ!普段、リウやルルやアスナさんの極太尻尾を吸う側でしかないあたしが、一度でいいから『吸われる側』の頂点に立ちたいと願って何が悪いっていうんですの!」


「はあ!?」


「あたしだって、もふもふに溺れたかったんですのよ!これは純粋な探究心ですわ!」


「探究心の方向性が斜め下すぎますわ!」


「フム。……解析完了だ」


エラーラが冷静に診断ツール『真理の眼』を、ナラティブの巨大な尻尾に押し当てた。


「ひゃぅっ!?」


ナラティブの口から、甘く痺れるような悲鳴が漏れ出る。


「な、何をするんですのお母様!」


「ナラティブ、君は変身薬の副作用で論理回路がショートしているようだ。自分の性癖を自分自身で体現するという再帰的なバグ――これが真理だ!」


「真理じゃありませんわ!ただの羞恥プレイですわ!」


「あ、あの……ナラちゃん……」


ルルとリウが、申し訳なさそうに、もぞもぞと近づいてきた。


「ナ、ナラちゃんの……本物の……尻尾……」


「ル、ルル……?」


「あたしも、何だか吸いたくなってきたな……!」


「……リウ?」


「……さあ、ここはリウ君とルル君に任せて我々は事務所へ戻ろう。このバグの最終的なデバッグ……すなわち、ナラティブの歪んだ欲望の『完全燃焼』は任せたよ!」


エラーラの不敵な笑みと共に、ナラティブの運命は確定した。


「嫌ぁぁぁぁ!お家に帰してぇぇぇぇ!」


数分後。

尻尾は折れ曲がり、えっちなドレスは乱れ、ルルとリウからすっかり「吸い尽くされた」ナラティブが、「ぷにぷにファクトリー」の天井の染みを眺めながら口を開いた。


「……フフ。……見えましたわ。尻尾を吸う……。それは確かに、至高の喜びでしたわ。ですが、真理はその先……即ち『吸われる側』にこそ、真の救済があったというわけね……あたし……もう戻れませんわ。……リウ!」


「ん?なんだよ」


「……もう少しだけ……吸ってくださる?」


ナラティブが潤んだ瞳でリウを見上げた。


「はあ!?まだ吸うのかよ!?」


「ええ……。まだ足りませんの……。もっと……もっと奥まで……」


「しょうがねえなぁ。ほら、ルルも手伝え。ナラティブ様のアンコールだ」


「……はい、喜んで……。今度は……味覚センサーを……フル稼働させて……舐め回します……」


「ひゃああっ!?」


結局、王都を騒がせていた不審者は、自らの尻尾を吸わせることで解脱を果たしたハッピーエンドの獣人へと上書きされた。

借金は一ミリも減らず、損害賠償が加算され、ナラティブのドレスはゴミ箱行きとなったが、彼女の瞳には、吸われる快楽を知った者特有の、深く、淀んだ、しかし最高に幸せな光が宿っていた。

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