第74話 勇者は宣告する
僕は息を呑む。
国王の覇気が全身を刺していた。
背筋を汗が伝うのを知覚する。
特に睨まれていたり、殺気を放たれているわけではない。
見つめられたことで自然と緊張しているのだ。
国王の一挙一動を注視してしまう。
(なぜだ……?)
僕は疑問に思う。
おそらく身体が本能的に国王を警戒していた。
気を抜けない相手として認識しているのだ。
確かに国王は高名な剣士である。
その技量にて国を治めたほどの大英雄で、かつては凄まじい力を誇っていた。
だが、現在は老いている。
前線はとっくの昔に退いており、全盛期と比べれば脅威にすらなり得ない。
無論、僕なら簡単に始末できる相手であった。
それだというのに、何か不吉な予感を覚えてしまう。
きっと気のせいではない。
(何かあるな)
国王を観察する僕は確信する。
堂々と対峙している点や、国王が自ら盗賊団の殲滅に出向いている状況を鑑みると、どうしても不審な部分が多い。
影武者にしても不可解だ。
それらが明らかにならないうちは、不用意な攻撃は仕掛けない方がいいだろう。
とは言え、ここから逃れるのは困難な状況である。
どうしても交戦は避けられない。
脳裏で考えを巡らせつつ、僕は剣を構える。
国王との間合いを意識しながら発言した。
「ちょうどよかった。王都まで向かう手間が省けたよ」
「……何が言いたい」
国王が眉を寄せる。
微かな苛立ちが感じられた。
途端に空気がひりつく。
無意識に呼吸が浅くなるも、僕は臆さずに告げた。
「――国王。お前を殺す」
場に真の沈黙が訪れる。
国王は小さく笑い声を洩らした。
彼は蔑みを隠さずに僕を一瞥する。
「自意識過剰だな。昔の貴様はもっと冷静だったが」
「死体のような生活を脱却しただけだ」
魔王討伐後の三年間。
それは僕にとって空虚な日々だった。
何もせず、ただ墓守として生き続けていた。
使命も目的も持たずに過ごすのは、あまりにも苦痛だった。
いや、その苦痛すら感じていない状態であった。
しかし、僕はもう変わった。
外道の道に堕ちながら、元勇者の墓守として新たな未来を見つけたのだ。
理想の死園を築き上げる。
そして、忘却された英雄の存在を永遠のものにする。
彼らの犠牲を後世に知らしめなくてはならない。
そこに国王は不要だった。
彼こそ皆の犠牲を軽んじた張本人である。
再会が予想外に早まったが、僕としては好都合だ。
絶対に排除せねばならない。




