第64話 勇者は仲間の成長を懸念する
「教えてもらった魔術、上手く使えたよ!」
「偉いじゃん。マリーちゃんは天才だねー」
「わーい!」
大喜びするマリーの頭をネネが撫でている。
ここ数日ですっかり懐いた様子だ。
ネネから魔術を伝授されたマリーは、それらをさっそく使いこなしているらしい。
戦闘中、横目に何度か確認したので知っている。
マリーは見事な手際で兵士を屠っていた。
広範囲の地面を液状化させて敵兵を沈めたり、遠くからの矢や魔術を突風の壁で防いでいた。
マリーは強力な術を扱う魔術師に成長した。
状況によって使い分ける判断力もある。
考えなしの正面突破なら、僕でもかなりの苦戦を強いられるだろう。
二人が盛り上がる横では、エマが複雑な表情を浮かべている。
彼女はさりげなく魔術を発動すると、周囲の死体を一瞬にして白骨化させた。
正確には凄まじい速度で腐敗を進行させたのである。
エマは残された遺留品のうち、必要そうな物だけを集め始めた。
驚くほどに円滑な死体処理だ。
既に慣れ切っているのが目に見えて分かる。
(僕の助けなんて不要だな)
エマとマリーは急速に成長している。
三人で暮らしていた時からその片鱗を見せていたが、出発してからの変化は特に著しい。
僕より魔術に詳しいレナや、優れた魔術師であるネネの指導を受けて、本格的に才能を開花させている。
度重なる実戦経験も実力向上の要因だろう。
大げさでも何でもなく、一騎当千の力を秘めている。
魔術とは使い手の精神と深く関係する。
エマとマリーは、死園を取り巻く異常な状況に刺激を受けてきた。
結果、あのような腕前になったに違いない。
もちろん僕が狙ったことではない。
ただの偶然である。
眠れる才覚が発揮されたのだから、本人達にとっては良かったかもしれない。
ただ一つ、懸念していることがある。
彼女達は大量殺人を敢行した。
それを躊躇いもなくこなしてしまった。
エマはまだいい。
沈痛な面持ちながらも、状況のためと割り切って行動している。
心配なのがマリーだ。
彼女は悪意なく殺戮を展開した。
元より恐怖心を持たない性質で、それが顕著に表れている。
将来、どうなっているのか不安になる。
いつか死園を出て自立してほしいと思っていた。
彼女達に幸福な人生を歩んでもらうためだ。
実際は大量殺人に加担させて、その暴力性を助長している。
自分のことばかりで何も見えていなかった。
ある意味では、僕と同じくらいに手遅れかもしれない。




