第61話 勇者は本心に気付く
いくつかの確認を済ませた後、僕達は出発。
ここから街道に沿って移動して、基本的には王都までの道のりを進むことになる。
数日分の食糧は持っていた。
村や街には寄らず、盗賊団のもとまで一気に向かいたいと思う。
道中は陽気なマリーの言動にネネが反応する。
僕とエマは控えめに応じていた。
なんとも微妙な空気感だが、前者の二人が底抜けに明るいため、緊張感は薄かった。
これといった襲撃もなく、退屈な道のりである。
やがて夜が訪れた。
僕達は街道から少し離れた場所で野営を始める。
焚火を囲み、保存食を食べて時間を過ごした。
この時期は寒さもそれほど厳しくない。
たまに魔物が出没するが、僕達なら容易に察知できる。
警戒すべき相手ではなかった。
一足先に食事を終えて素振りをしていると、ネネが僕の背後に回った。
僕は剣を下ろして振り向く。
ネネは保存食を齧りながら言う。
「それにしても、よくレナちゃんに死園を任せるよねー。怖くないの?」
「不安ではあるさ。信頼とは程遠い」
僕は正直に頷いた。
ネネはレナと仲が良い様子だが、彼女の性格については正確に把握している。
印象については僕も同意見であった。
不思議そうな顔をしたネネはさらに疑問を重ねる。
「じゃあなんで留守を任せたの。盗賊団との交渉なんて無視すればいいのに」
「…………」
ネネの言う通りだ。
今回の手法はあまりに危険すぎる。
前提として交渉が上手くいくかも分からない。
信用ならない人間に死園を託して向かうほどではなかった。
しかし、僕は実行した。
『ネネと同じ意見よ』
視界の端に魔力の文字が浮かぶ。
それを書いたのはエマだ。
座ったままの彼女は、やり取りを聞いていたらしい。
ちなみにマリーは食事を終えて居眠りしていた。
二人の視線を受けた僕は思考を巡らせると、彼女達の疑問に答えを提示する。
「……レナを、試しているんだ。ここで裏切らないようなら、多少は信用できる」
そう語りながらも、僕は漠然とした違和感を覚えていた。
納得していない二人を見つつ、軽い自己嫌悪を感じる。
(いや、本当は違う)
僕は自覚していた。
二人に話したのは、たぶん建前なのだ。
どこまでいってもレナは信用に値しない。
たとえ今回は裏切らなかったとしても、次はどうか分からない。
油断させるのが狙いかもしれなかった。
レナはあらゆる面で不明瞭である。
己の考えを見せようとせず、常にはぐらかすような言動を取ってくる。
それを理解しているのに、僕は彼女に留守を任せた。
我ながら不可解だ。
そうするしかないと言い聞かせてきたが、別の理由があるのかもしれない。
僕は静かに考え込む。
怪訝そうな二人を置いて、己の胸中を探り続けた。
そして一つの事実に気が付く。
僕は、レナを信用したいのではない。
何の憂いも無く、彼女を殺したいのだった。




