第59話 勇者は魔女と語る
「レナちゃんから聞いたよ。ここを死園って場所にするんだって?」
「ああ、そうだ。だから拡張を進めている」
僕は頷きながら嫌な気分になる。
接触は控えるように忠告していたのだが、レナは少女と会話していたようだ。
しかも余計なことを吹き込んでいる。
見張り役のエマと見ると、彼女は苦い顔で首を振った。
たぶん止めようとしたものの、制止を振り切ってやり取りされたのだろう。
それは仕方ない。
レナは自由奔放で、話し合いで解決できる性格ではなかった。
注意したところで大した効果は期待できないだろう。
僕がため息を吐く一方、少女は頬を膨らませて思案していた。
そしてこちらの様子を窺うように意見を述べる。
「死園なんて、国は黙ってないと思うんだけど」
「だからお前達が来たんだろう」
「アハハ、確かにそうだね!」
少女は足を動かして大笑いした。
僕の返しがよほど気に入ったらしい。
皮肉のつもりが、満足させる結果となってしまった。
この辺りがレナとよく似ている。
だから仲が良いのかもしれない。
しばらく笑い転げていた少女は深呼吸で落ち着くと、身を乗り出してきた。
僕の目を凝視して、何かを確かめてから頷く。
「……うんうん」
「何だ」
「仲間になってあげよっか? 人手不足で悩んでるんでしょ?」
少女は唐突に提案する。
邪気のない調子で、満面の笑みを湛えていた。
何も知らなければ善意としか思えないが、彼女の素性はよく知っている。
僕は提案には答えず、確認のための質問をする。
「それもレナから勧められたのか?」
「そうそう! こんな風に言ったらたぶん殺されないだろうって」
少女は躊躇いなく白状した。
それを聞いた僕は、ますます頭を抱えそうになる。
レナは具体的な助言までしていたらしい。
何が目的かは知らないが、暗躍しているようだった。
(やはり知人を死なせたくないのだろうか)
そういった感情を持ち合わせているとは考えにくいが、完全には否定できない。
レナの真意について考えていると、少女が弁明の言葉を加える。
「でも気持ちは嘘じゃないのよ? 盗賊生活も飽きてきたから、そろそろ転職したかったし」
どこか疲れた目だった。
演技ではない本音が覗いている。
彼女は隷属魔術を解除できるほどの腕だ。
盗賊団ではさぞ重宝されたのだろう。
色々と都合よく扱われていたに違いない。
そういった役割に辟易しているようだった。
彼女の苦労を察した上で、僕は断言する。
「お前は信用できない」
「そばで見張ってればいいでしょ。どうせすぐに殺せるんだから」
少女はどこか皮肉った調子で反論する。
刺々しさを感じる雰囲気だった。
さらにいつの間にか口調が変化している。
あどけない少女のものではない。
やさぐれた魔女のような声音となっていた。
これが本来の性格なのだろうか。
少女は含みを持たせた笑みで僕に囁く。
「ここで仲間にしてくれたら、お得なことがあるわよ」
「何だ」
僕が先を促すと、少女は得意げに述べる。
「盗賊団の本拠地まで案内してあげる。交渉次第では、頼もしい協力者になってくれるんじゃないかしら」




