第56話 勇者は盗賊幹部を捕える
大男が宙を舞った。
その巨躯が地面に激突し、回転する大剣がそばに突き刺さる。
遅れて着地した僕は辺りを見回す。
周囲の盗賊達、とっくに逃げ出していた。
それなりに忠誠心はあるのだろうが、やはり自分の命が大事なのだ。
加勢したところで意味がないことも分かっているのだろう。
一部の盗賊は村の方へ向かったが、焦ることはない。
耳を澄ませば、連続する断末魔が聞こえてくる。
番人であるレナが奮闘しているようだ。
他に幹部らしき者はいないので、心配することはないと思う。
僕が合流するまでに全滅させているのではないだろうか。
戦況を把握した僕は視線を戻す。
大男は顔面が陥没し、血を噴き出して痙攣していた。
まだ生きていることに驚きだ。
殺すつもりだったというのに、かなり頑強である。
人並み外れた体躯と怪力から考えると、巨人族の血統なのかもしれない。
とは言え、今は行動不能だ。
即死ではないにしろ、まともに動けないはずである。
少なくとも意識は失っているようだった。
僕は大男のそばを通過すると、静かに逃げようとする少女の前へ向かう。
彼女の前に立ちはだかり、落ちていた斧を拾って突き付けた。
「動かないでくれ。手荒な真似はしたくない」
「うぇっ」
少女は苦い顔をした。
僕は斧を彼女の首筋に添える。
死が間近にあるというのに、少女は笑みを深めた。
こちらを嘲るような眼差しで、勿体ぶるように杖を持ち上げる。
斧を交差するようにして、先端を僕の頬に当ててきた。
彼女は年齢に不相応な表情で言う。
「そっちこそ動かないでよ。頭を吹っ飛ばされたいの?」
「やってみればいい。その代わり容赦はしない」
僕は毅然とした態度で返す。
脅しなんて効かない。
この体勢から一瞬で首を刎ねることができる。
何をされようと仕留められる。
少女は詠唱を介さずに魔術を行使するようだった。
魔術師としてかなり優秀で、おそらく外見も偽っている。
実際はもっと長い時を生きているのだろう。
しかし、この距離なら僕が有利だ。
たとえ相打ちになったとしても打ち勝てる。
絶対の自信があった。
互いに武器を突き付けたまま沈黙する。
至近距離での睨み合いだ。
張り詰めた空気の中、先に根を上げたのは少女の方だった。
杖を下ろした彼女は舌を出して笑う。
「あーあ、本気の目じゃん。あなた狂ってるわ」
「よく言われるよ」
僕は表情を変えずに頷く。
ここ最近の所業は、狂気の沙汰と呼べるようなものばかりだった。
今更、狂っていると言われようが気にしない。
たとえ発言者が盗賊団の幹部の魔術師だろうと指摘する権利はある。
「まったく、勇者が衰えたって情報は嘘だったのね……」
魔術師の少女が肩を落とす。
降参を示すためか、杖を捨てて両手を上げた。
気になることをぼやいているが、その話については後でしっかり確認しようと思う。




